第5話 絡繰童子、美味いのかな?
「あれは絡繰童子だ、大物が出て来たね」
月影のシルエット、頭から角を生やしたその異形に向かってきぃが言葉を放つ。宙に浮いた男の影は笑いながら。
「さあ、この数をどうする公安御祓局」
と言った。
「もう一度、黄色変性をやる。隙を作ってくれ皆」
きぃが他の三人に声かけする。三人は頷き。それぞれ
「いてぇ!?」
土蜘蛛に蹴られたクロが壁に叩きつけられる。禍魂との戦いで初めて受けた痛みに驚く。
「大丈夫かクロ――ってうわっ!?」
よそ見をしたモモコに土蜘蛛の脚が入る、桃色の障壁でガードするも勢いまでは殺しきれない。
「二人共! 伏せて!」
イエロウが叫んだ。イエロウは土蜘蛛の脚を掴んで本体ごと投げ飛ばし、それは他の土蜘蛛を巻き込んでいった。
「準備、出来たっ!」
きぃの声、三人がきぃの下へと集結する。
「――黄色変性・円、錆びろ」
放たれる黄色い輪それは広がり、辺り一面を黄色く染めていく。土蜘蛛共がまっ黄色に染まる、動きが鈍くなり、止まる。決着は着いた。かに見えた。
「まだだ」
絡繰童子が呟く、その指を宙でうねうねと動かす。すると、止まっていた土蜘蛛が身体を軋ませながら動き出した。
「アイツが操ってる! 本体を叩け!」
きぃが叫ぶ。三人が応じる。しかし、宙に浮いた相手に対して、跳躍が届かない。
「どうしよう! 届かない!」
慌てるモモコ、そこでクロが提案した。
「三人の力を合わせよう。イエロウさん俺達を投げてくれ」
「――! 分かった」
イエロウがクロとモモコの二人を抱えて投げ飛ばす、絡繰童子の下へと。勢いよくかっ飛ぶ二人、しかしようやく見えた絡繰童子の顔は笑っていた。尖った犬歯を見せながら。
「それでは届かん」
クロも笑う。八重歯をのぞかせながら。
「まだだ」
今度はモモコがクロをサイキックで投げ飛ばす。勢いよく射出した。
「――かっ跳べ!」
桃色の
「よもや」
「届いたぞ」
クロが絡繰童子の着物の襟首を掴む。そして思い切り頭突きを喰らわせた。血が噴き出る。絡繰童子の頭からだ。クロは無傷。クロはまだ襟首を離していない。絡繰童子が力を失いクロと共に落下する。その落下中に。
「――黒色一式! 一蹴!」
蹴りを繰り出した、かっこよく(と自分では思っている)技名を叫びながら。きぃに感化されたのだ。それは絡繰童子の胴体を貫いた。臓物が飛び散る。地面に叩きつけられる二人。
「獲ったぁ!」
着地したクロは相手の命を獲った。そう思った時だった。絡繰童子が笑う。そう笑ったのだった。自分の
「はははっ! まだだ青二才共! この程度で死ぬ絡繰童子様ではないわ!」
そこに。
「ふぅん、それじゃ、これはどう?」
ぱぁん♪ という場違いな声がその場に響いた。まるで幼子の遊びのような声音。しかし、その一撃で絡繰童子の首と胴体が切り離された。
「……遅いよアオ」
「悪いねきぃ、ちょっと残業があってさ」
青色の髪のスーツルックの女性、公安御祓局の主任、大天狗を一撃で葬ったあのアオだった。
「〈青ざめる恐怖〉……!」
「あー、その呼び方好きじゃないんだよね、可愛くないじゃん」
「……二つ名?」
クロが尊敬と怪訝が混ざったような顔で突如現れたアオを見つめる。絡繰童子は己の頭がこぼれ落ちる前に掴む。
「ねぇ、絡繰童子、アンタの上に居るヤツの事、教えてくれない? そしたら、アンタは見逃してあげる」
「なにを馬鹿な」
両手が腸と頭で塞がったまま、話には応じる絡繰童子。
「一応、アタシの監視付きって事にはなるけど、ある程度の自由も認めてあげる」
「な、何を」
「鞍替えしなよって言ってんの、まだ分からない?」
「……まだ機甲禍魂のストックはある」
「出してみれば? 無駄弾だと思うけど?」
黙り込んでしまう絡繰童子、いや何か呟いている。
「……いや、しかし、まだ勝ち目がない訳では……しかし、アレを出すのは……」
呟きの内容までははっきりとは聞こえない。アオは嘆息したように。
「はぁ、もういいよ」
と言った。すると絡繰童子は。
「ま、待て!」
「お? 鞍替えする気になった?」
「あ、ああ、考えよう」
「えー、それだけー?」
拗ねた子供の様な態度のアオ、慌てて絡繰童子は。
「これを見てから判断する…………来い! 牛鬼!」
轟音が響き渡る。巨大な機甲禍魂が舞い降りた。それは土蜘蛛の胴体に絡繰童子の頭が付いた異形だった。
「ふっ、ふはははは!! これほどの質量! 私以上に幸運を喰らったこの牛鬼に敵うはずがない!」
アオはため息を吐く。
「やっぱ、もういいよ」
ぱっと中指を立ててファ〇クサイン。
モモコが「ひゅー! ロケンロー!」と叫んだ。
「――空色無式、浮け」
牛鬼が宙に浮いた、それだけではない。そのまま浮かび上がり加速していく。遥か天へと向かい、牛鬼は点となっていく。
一瞬の出来事に。
「は?」
と呆けた顔をする絡繰童子。
「で? 次は?」
「……もうない」
絡繰童子降参の合図だった。アオ以外の四人が喝采に沸く。
「で? 話してくれるの? アンタの上の事」
「……オハシラ様は」
そこまで口にした瞬間だった。虚空に大口が開いた。バクンと一息で絡繰童子が飲み込まれる。その一瞬の出来事に今度はアオが呆けた顔になる。
「しまった、口封じか」
「え? 逃げられた?」
「厄介な……せっかく絡繰童子ほど大物が出て来たっていうのに」
「落ち込むなよきぃ、次があるさ」
「オハシラ様……?」
五者五様の反応を見せる。
ようやく太陽の薄明かりが上って来た。
夜が明ける。
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