第4話 機甲禍魂、食えねーよ。
「公安御祓局の本拠地に送った大天狗はどうなった?」
黒い影の中。ぽつりと呟く、何者か。
「はっ、〈青ざめる恐怖〉に仕留められました」
「ちっ、役立たずめ。所詮、肩書だけの妖怪よ」
「次なる一手はどうします?」
「このまま幸運を集め続けろ、人間を凌駕する日が来るその日まで」
「御意」
何者かが暗い空間から、その場を後にする。
暗闇の残された方の何者かはため息を吐いた。
「そろそろ、我の出番か……」
翌日、公安御祓局の本拠地。
「じゃあ
アオの授業が始まった。
「禍魂とは幸運を吸い取るモノの総称だ。普通の人間には見えない。
そこで手が上がる、クロだ。
「じゃあ
「いい質問だ。いいか御払師ってのは、要するに超能力者だ。境界をひとっとびに超えちまった奴らの事だ」
「超能力者……じゃあ使い魔ってのは?」
「さらにいい質問だ。超能力者はその力を分け与える事が出来る。その代わり命の
「リンク?」
「そうだ、命の共通化は文字通りの一心同体、力の代償は大きい、一人で二人分の命を背負う事になる。その分、得る力も大きいが」
「どうだ? 分かったか? クロ?」
「うーん、まあ一応、あのー、じゃあ公安御祓局って?」
「国の公的対妖怪組織。なんで公安が担当してるかは内緒」
唇にひとさし指をあてるアオ。
「なんか釈然としないなぁ」
「なんか不満でもあんのか?」
クロとモモコが公安御祓局の本拠地の廊下を歩く。ふとそこで、前から人影が来る。二人組だ。片方がもう片方の頭を腕で捕まえている。
「うりー、このこの、今回死にかけたのお前のせいだからな!」
「いやあれはきぃさんが……」
「きぃさん!」
「え、誰?」
モモコが頭を掴んでいる方の女性に声をかける。クロは置いてけぼりだ。掴まっていた男性が開放され、かわりばんこでクロの下に男性がやってくる。
「や、やぁ」
「……ども」
痩せた青年だった、黄色い髪の毛や黄色いパーカーが似合っていない。というか全身黄色だ。誰の趣味だろう。とクロは考えた。
「きぃさんはワタシの先輩だ! きぃ先輩だ!」
「よぉモモコ。お、お前どうやら
「えへ、
なんか会話が噛み合っていない気がする。金髪碧眼の高身長美女がクロを見やる。そのスーツ姿からは色気が漂っていた。香水がキツイ。思わず顔をしかめるクロ。
「……アハハ! 悪かったね! この香水は魔除けでね。境界が禍魂に近い奴にはキツイんだ」
「禍魂に近い……?」
「そうさ、だから使い魔に選ばれたんだろう?」
「そうなのかモモコ?」
クロはきぃ越しにモモコを見やる。
「まぁね。あんたは河童か何かだろうさ」
「なんだって!?」
「あはは、ジョーダン!」
「……相変わらずモモコちゃんの冗談はキツイね」
まっ黄色の青年が喋った。存在を忘れてたかのような反応をする各々。
「あ、イエロウ、居たんだ」
「モモコちゃん……それは冗談になってないよ」
「……すいません」
なんとなくクロが謝る。
「いや、君が謝る事でもない」
イエロウと呼ばれた青年はきぃの下へ行くと。
「じゃあ僕らはこれで帰るから」
と言った。
二人して公安御祓局から出て行こうとする。慌ててクロの手を引き、追いかけるモモコ。
「ワタシ達も帰るとこっすよー! 一緒に帰りましょー!」
こうして、四人グループで帰る事になった。
場面は変わり、魔都TOKYOの中、廃寺から出たらそこは喧噪の中だった、夜中だというのに人が大勢いる。
「いつになったら夜が明けるんだ……?」
クロが一人ごちる。モモコはそれにそっけなく。
「妖怪が全滅したら?」
と返した。
その時、ガシャーン! という甲高い金属音が鳴り響いた。四人の前方からだ。誰もその予兆に気づかなかった。それは蜘蛛だった。とても巨大な。
「土蜘蛛……? でもこいつは……」
「ヒャッハー! 今日は食べ放題だZE!」
モモコがサマーソルトキックを放つ。桃色の光刃が解き放たれる。それは土蜘蛛へと辺り――
ガキィン!
と跳ね返した。
「んなっ!?」
「下がれモモコ、こいつ機甲
「じゃあ食えねぇじゃないっすか!?」
「判断基準そこなのかよ……」
モモコを土蜘蛛から引きはがすクロ。きぃとイエロウが前へと出る。イエロウが駆ける。
「イエロウ! そいつの動きを止めろ! アレをやる!」
「わかってる!」
暴れ回る八本脚。その一つを怪力で押さえ込むイエロウ。それを見てクロが。
「すげぇ、あんな痩せてんのに」
と呟いた。
きぃはというと何やら印を結んでいる。精神を集中させているのだ。言外にきぃの邪魔をするなとクロを黙らせるモモコ。
「――黄色変性、錆びろ」
黄色い一本線が、道に引かれた。暴れ回る機甲禍魂の上にもかかる。その線の場所から機甲は錆びていった。言われた通りに。きぃの思うがままに。
「これが超能力?」
「そう、きぃ先輩はすげぇんだ」
黄色変性、触れた者を好きなように改変出来るきぃの特殊能力、しかしそれには極限の精神集中が必要で、そのためイエロウのサポートが必要不可欠となる。
「弱らせた! モモコやれ! 錆びた部分なら、お前の刃が効く!」
「了解!」
再びのサマーソルトキック。半円の弧を描いた刃が飛んで行く。横からみれば三日月のように見えるその刃はきぃが描いた線をなぞって機甲妖怪を切り裂いた。
土蜘蛛が叫び声を上げる。電子音のようなハウリングのような歪な音だった。
「クロ! トドメを刺せ! 傷口から手を突っ込んで幸運を奪い取れ!」
「畜生……結局それかよ!」
土蜘蛛に飛びつくクロ、その切り裂かれた胴体に手を突っ込む。何かの感覚、引っ張りだす。それは――
「基盤?」
パソコンなどの電子機器に使われる基盤だった。きぃが叫ぶ。
「叩き割れ! それがコアだ!」
「……了解!」
パキッという音と共に基盤が割られる。
土蜘蛛は沈黙した。モモコが封印を施し霧散させる。どうにも妖怪の死骸を残しておくのも運勢的に良くないらしい。クロは首を傾げる。いまいち飲み込みの悪い少年だ。
「これで終わり?」
クロが聞いた。すると三人の誰でもない誰かが答えた。
「だと思ったか?」
落ちてくる大量の土蜘蛛。そこにいる人影。シルエットに頭から角が生えていた。
「鬼!?」
身構えるクロ以外の三人。
「え、鬼ってそんなヤバいの?」
鬼は空中から。
「我らが御大将の命令だ。貴様らの命貰い受ける」
と言ったのだった。
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