第3話 大蛇を狩ってへび重にしよう


 モモコとクロは摩天楼を駆ける。ビルからビルへと移り飛ぶ。


「俺がえさになって、禍魂マガタマを呼び寄せて、モモコがそれを退治する?」

「そ、それが使い魔の契約」


 公安御祓局の本拠地にて話を聞いてもチンプンカンプンだったクロはモモコ共にそこを飛び出し、少女に言われるがままついて来たのだった。夜の街並みは暗くて明るい。


「公安御祓局が国に認められた組織で、御祓師サイキッカーや餌をスカウトしていて、契約しては妖怪退治をしているだっけ?」

「そうそう」


 クロは自分の身体能力が向上した事に非常に驚きを今更感じている。


「モモコのあの吹きかけてきた息はなんだったんだ?」

「そのまんま、あたしのサイキックパワーだよ。アンタの身体の中から生命エネルギーを向上させてんの」

「うーむ、さっぱり分からん」


 黒ずくめクロとエキセントリックなモモコの恰好が対比となって空を駆ける。


「で? どこ向かってんの?」

「公園」


 そこは小さな古びた公演だった。摩天楼の立ち並ぶ都会の中に置き去りにされた遺物。錆びた遊具が放置されている。非常に危ない。


「ここになにが?」

「大物」


 シュルルル、という音が聞こえた。それは蛇の鳴き声だ。


「クロ、いいかアタシ達の仕事は妖怪退治、だZE?」

「まさか――」


 人の身の丈ほどある大蛇が姿を現す。白い鱗がねめり煌めく。シャー! と牙を剥いてクロへと襲い掛かる。


「――うわっ!?」


 飛び避けるクロ。モモコはサマーソルトキックを繰り出す。桃色の刃が放たれる。それは大蛇を輪切りにする。血しぶきが舞い散り、臓物が辺りに散らばる。しかし、大蛇は絶命しない。大蛇の肉片が小さな蛇となり。分裂した。


「こいつはやっかいだZE!」

「どうすんだモモコ!」


 モモコはよだれで指を湿らせてそれを飛ばす。汚い。しかし桃色の唾液は蛇を浄化していく。焼き焦がされる蛇達。


「……口から直接、吹きかけりゃいいんじゃねぇの?」

「それいいアイデア、ブーッ!」


 唾を吐き散らすモモコ。汚い。しかし、蛇は焼かれていく。


「ああ、いい匂い……こいつきっとこの公園に来る子供達から幸運を奪ってたんだ」


 蛇がジャングルジムを倒壊させる。モモコに降り注ぐ鉄棒、モモコはそこから跳び去る。しかし一発が足に当たる。


「いっつ……!」

「モモコ!?」


 駆け寄ろうとするクロ、手で制すモモコ。近寄るなと言外に告げる。


「ちくしょう! 増える蛇なんてどうすれば――」


 ふと少し古い記憶を思い出すクロ、昔、ちょうちょ結びが出来ずに堅結びしか出来なかった幼い時代の話だ。蛇の一匹を掴む。もう一匹を掴む。それをぐるぐる巻きにして結んでやる。それを次々と繰り返す。


「すげーじゃん、クロ」

「……これ、俺がやったのか?」


 一塊になった蛇の団子。身動きがとれなくなってもがいている。足をひきずるモモコがそれを担ぐ。


「本拠地まで持って帰ろう。今日はへび重だ」

「その足で?」

 

 蛇団子を代わりに持ってやるクロ。例の廃寺への道を戻る二人。

 その最中だった。


「おいおい、クロじゃん! どうして焼きそばパン買ってこなかったんだよアァン?」


 クロが脅されていたヤンキー集団と出くわしてしまう。


「しかも女連れとは良いご身分ですなぁ!」


 ヤンキー共はモモコを値踏みするように眺める。


「へぇ、派手だけどいい女じゃん。こいつ献上したら、許してやっても――」

「うるさい」

「あ?」

「うるさい邪魔だって言ったんだ!」


 クロが咆哮する。ヤンキー集団が気圧される。弱い。


「なにマジになってんのこわ……もういいから焼きそばパン買って来いよ」

「お前こそもういい。二度と俺に関わるな」


 クロは強く出る。ヤンキー集団はそれに圧倒される。弱い。


「んじゃそういう訳で、じゃあね! モブ君たち♪」


 モモコが手を振りながらその場を後にする。クロは振り返りもしなかった。後ろでヤンキー集団がなにやら騒いでいたが気にしない。


「おーおー、説明の途中で飛び出したと思ったら、そいつは『古公園の大オロチ』じゃねーか」


 公安御祓局の本拠地にてアオに面会する。厨房にて。


「今夜はうな重ならぬへび重にしようかと!」

「いいねぇ、この包丁を使いな」


 青く光る刃、不思議な輝きの包丁だった。


「これは?」

「私のサイキックパワーを込めた特製品さね。これならオロチも分裂しないだろうよ。昨日完成したばかりなんだ。明日試そうかと思ってたんだが、まさか縛って倒すとは、驚きだよ。モモコがやったのかい?」

「いやクロが」

「……へぇ」


 含みのある笑みだった。しかしアオの真意までは分からない。蛇を器用に捌いていくモモコ。確かに分裂しない。綺麗に裂けて行く。蛇は骨が多いので、それを綺麗に取り除いて行く。少女の表情は真剣そのものだった。


「ふぅ。出来た。後は焼くだけっす!」

 

 蛇団子は綺麗な蛇の下ろしに変わっていた。それにタレに漬け火にかけていく。じりじりと焼かれる蛇。まだ大量にある。


「これ全部食うの……? うぇ」


 天狗ハムのマズさを思い出し、嗚咽するクロ。高笑いするアオ、むっとなるモモコ。こうして出来上がったへび焼きをごはんの上に載せる。重箱の中に入れて完成だ。


「いただきまーす!」


 バクバクと食らいつくモモコ、ちびちびと食らうクロ。アオは普通のペースだ。


「うん、こりゃなかなか」

「どこが……?」

「幸運の味がするZE?」


 そうして完食、大オロチは見事討伐されたのだった。

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