第10話 混戦、此処に極まれり。


 クロはモモコとアカの間に割って入っている。

 そのアカの向こう、ムラサキが佇んでいる。犬のように座り込んでいる。

 現状の位置取りはそんなところだ。

「アオは来ないのかにゃーん?」

 アカが挑発するような口ぶりで話す。

「アカさん……どうして!?」


「どうしてって? なにがー?」

 すっとぼけるアカ、モモコは歯噛みする。

「どうして裏切った!」

 間髪入れずにサマーソルトキックの斬撃を放つモモコ。

 アカは嗤って。

「甘いな!」

 禍魂を盾にした。


 血飛沫が舞う。それを見たムラサキが狂った様に吠える。

「爆ぜろ! 爆ぜろ! 爆ぜろ!」

 辺りの地面が爆発する。間欠泉のように何かが噴き出している。

「やめろムラサキ!」

 モモコが制止しようとするも、アカに邪魔される。

「このままムラサキには暴れてもらう……アオが回収に来るまで思う存分!」


「俺が止める!」

 クロがアカを抜き去りムラサキの下へと駆け出す。

「危ない! クロ!」

 モモコが叫ぶ、しかしもう遅い。

「おいやめろ! モモコが嫌がってんだろ!」

 クロがムラサキを止めに入る。


 しかし。

「爆ぜろ!」

 地面が爆発する。クロが吹き飛ばされる。

「クロォ!!」

「アーハッハッハッ! お仲間、おっんじまったんじゃないのお?」

「アカさん……アンタ本当に変わっちまったんだな……!」


 モモコがステップを踏む。集中力を高めるためだ。

 タンタタン、ワンツー、ワンツー。

 タンッ!

 勢い良く地面を蹴り出す。

 アカとの距離を詰める。

「桃色息吹、消えろ――」


 吹きかけるは桃色の烈風、その勢いにアカは目を見開く。

「ひゅー! あのが技を覚えたか! いいね! 盛り上がってきたー! 赤色遊戯――」

 そこに。

「空色無式、浮け」

 アオが割って入る。


 アカが宙に浮く。そのまま天へと旅立とうとする。

 だが。

「落ちろ」

 その一言で、浮こうとする自らを禍魂マガタマで押さえ込んだ。

「それじゃ一時しのぎだ、〈赤熱する憤怒〉」

「おいおい、これで終わりと思ったかよ〈青ざめる恐怖〉」

 アカの上に乗っかっているのはナイフを持ったピエロだ。


、切り裂け」

 空間を切り裂くピエロ。するとアオの術は解かれた。無重力状態が無くなる。重力が正常になる。

「また大物を呼んで来たな?」

「そうかね、高々、娼婦を5,6人殺しただけじゃないか。知名度だけの怪物さ」

 アカは高笑いをする。

「さあ遊ぼうアオ! 久しぶりに! 赤色遊戯、踊れ――!」


 ジャック・ザ・リッパーが分裂する。ナイフを持った殺人鬼が強襲する。

 しかし、しかしだ。

「私の桃色息吹は終わってない」

 モモコが睨みながら告げた。

 桃色の烈風に当てられたピエロが消え去っていく。掻き消えて行く。


「へぇ! やるじゃん!」

「よくやったモモコ、未完成だった桃色吐息を完成させたね」

 アカとアオが褒める。

 照れるモモコ。

「知ってたんすかアオさん――って」

 そんな場合じゃない。


 クロとムラサキが取っ組み合いの喧嘩をしている。

「よくもさっきは吹き飛ばしてくれたな!」

「爆ぜろ! 爆ぜろ!」

「爆ぜない! このバカ!」

「ば……ムラサキ、バカじゃない!」


 そこに、が現れる。

「迎えに来たぞ、ムラサキ」

 不定形の怪物。それを見てムラサキは。

「おじーちゃん!」

 と言った。

「は?」


 クロは状況について行けなくなる。

 どういう事だこれは。

 こいつは誰だ?

「誰だお前――」

 言うなり吹き飛ばされるクロ。

「またこれかよ!」


「……お主、何故、無事なのじゃ。本気でるつもりじゃったぞ?」

 クロは起き上がりながら。

「知るか、そんな事……いてて」

「我が名は柱。お主たちにも名は通ってるはずじゃな?」

「はしら……? あ、お前、オハシラ様ってヤツか!? 禍魂マガタマの親分みたいな!」


「ほっほっほっ! 親分とはまた呼ばれたのう」

「そいつがこのケモミミっ子になんの用だ」

「ん? ああムラサキの事か、この子は我が子でな。回収しに来た」

 クロは驚く。

「はぁ!? 我が子ぉ!?」

 会議室の話にも着いて行けていなかったクロだ。当然、理解出来るはずも無く。


「アオとアカも同様にな。その最高傑作がムラサキという訳じゃ」

 クロは目を回す。

「アオさんもオハシラ様の娘ぇ!? なんだそれぇ!? わっけわかんねぇ! もういい!」

 オハシラが揺らめく。

「ほう、どうする小童」


「ぶちのめす」

 嗤うオハシラ。

「カッカッカッ! 世間知らずの大馬鹿者よな! 面白い、一撃、入れてみよ」

 クロは駆け出し、不定形の影を

「黒色一蹴! 逝けぇ!」

 すると。


「カハッ……」

 鮮血が舞う、不定形が人の形を作り出す、影は影のまま、人型になる。その人間でいうところの額に当たる部分から血を流している。

「よっしゃ!」

 手応え有りのクロ。驚くオハシラ。

「カッカッカッ、よもやよもやだ……この儂が傷つけられるとは」


「どうだ、もう舐めた口聞かせねーぞ」

「ふん」

 手を横に払うオハシラ。その方向に吹き飛ぶクロ。

「おわっ!?」

「何故、死なぬ。こちとら本気ぞ……?」

「だからいてーんだよそれ!」


 クロがまた起き上がる。合点がいったように手を打つオハシラ。

「そうか境界チャンネルか……! お前、今、何が見えている……?」

「はぁ!? 人影みたいな化け物と、獣耳生やした女の子だけど?」

 律義に答えるクロ。オハシラは嘲笑う。

「お主には、そう見えるか! 通りで攻撃が通るはずじゃし、こっちの攻撃は通らぬはずじゃ、


 クロは思わず、頭を掻く。

「何の話だよテメー!」

「ならばこうしようぞ? ●●●●、喰らえ」

 虚空が大口を開ける、クロの目の前、流石にマズいと思ったのか。クロが回避行動に出る。すると――


 そこには、

 形容しがたい、字に出来ない、認識情報として、受け入れられない、とてつもない異形。それがそこには居た。

 一体は半分がであり、もう一体は全身がであった。

「うわああああああ!?」

 恐怖で足がすくむクロ。しかし相手は容赦してはくれない。

 異形は、手に当たる何かを振り回した。


「さあ、今度こそ死ね」

 そこに。

「空色無式――」

「赤色遊戯――」

「桃色息吹――」

 三人の乙女が割り込んで来た。

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