最終話 神創受胎 後編


「此処は未来のTOKYOか、四年後とはまた微妙な」


 オハシラが一人ごちる。

 ムラサキは相変わらず遊んでいる。


「お前の遊びもここまでだオハシラ。此処で決着付けてやるZE!」

「ロケンロー!」


 すっかり服装までモモコ色に染められて趣味まで染まったエセロックンローラークロがそこに居た。


「四年経ってもなお、


 ゴウン、そんな音がした。

 星空が輪転する。月と太陽が追いかけっこを始める。

 オハシラの姿が変わる。か細い少年から、筋骨隆々の体躯の男へと。


「顕現、成ったか」

「じーちゃん、すごーい」


 ムラサキがはしゃぐ、が、気にも留めないオハシラ。


「さてどうするか、まずは人間の間引きから始めるか」

「おい無視すんなやコラ」


 蹴りをかましたのはクロだ。選択眼リモコンアイ境界チャンネルを合わせ、弱体化させた上での攻撃、完璧に入った、しかし。


にその一撃は通用しない」

「だったらこれはどうだ」


 モモコが前へ出る、やる攻撃は


「何を馬鹿な――!?」


 全力でモモコから距離を取るオハシラ。全神経が危険信号を告げていた。それはオハシラだけではない。


「モモコ、こわい」


 ムラサキまでも怯えている。一方モモコは。


「美味いな神ってのは! 伊達に幸運蓄えてねーZE!」

「絶対マズいよあんな筋肉ダルマ」


 クロもこんな調子である。

 だが間違いない、これで分かった。オハシラは確信する。


(こいつら、儂を喰らう気じゃ!)


 こんな人間、相手にしている暇もない。さっさと終わらせてしまおう。


「神色顕現、喰らい尽くせ」


 虚空に大口がいくつも開く、それが一斉にモモコ達に向かう。しかしだ。


「おっと」

「よっと」


 あっさり躱される。まるで来るのが分かってたかのように。あまりの出来事に呆けるオハシラ。四年で此処まで人間が強くなるものか? そう思わずにはいられないのだろう。


「次はこっちのターン!」

「あいよっ!」


 コンビネーション攻撃、クロが陽動、本命はモモコ、そんな事は分かり切っているが。


(どちらにも気を置けない!?)


 それは最初のクロの一撃がオハシラに。まるで遅効性の毒。ただの蹴りではなかった。念動力が込められていた。


「お前ら、どうしてそこまで――」

「強くなったかって? 

「アオじゃと!? アオはアカが四年前殺したはず!」


 そこに。


「それは、その時間軸の私」


 アオが現れる。

 あまりの出来事に再び呆けるオハシラ。

 ムラサキは。


「アオきらーい」

 

 と拗ねてどこかへ行ってしまった。


「やれやれ、


 アオの命令、それに参上したのは銀髪銀眼でタキシードの男と茶髪茶目のウェディングドレスの女。ちなみにミニスカ。


「りょうかーい」

「ちっ、一個貸しだかんなアオ」


 オハシラはもう事態を飲み込めていない。


「あの二人は、アオ、お前が封じたはず!」

「だーかーらー、それは元の時間軸の私、この時間軸の私はもっとクレバーなの」

「な、に……?」

「モモコとクロの潜在能力ポテンシャルを最大限までに高めた。オハシラ、アンタを倒すにはそれで充分だった。それくらい次世代は育ってた」


 モモコとクロの連撃が飛ぶ、オハシラは両方に意識を取られ躱せない。最優先で躱すべきはモモコだが、それでクロのダメージが蓄積しても美味しくない。

 ゆえに、逃走。それが最善手だった……のだが。


「逃がすかよ仇敵オハシラ


 空間が歪められている、いつまで経っても千本鳥居を抜け出せない。そもそもいつから千本鳥居など有った? オハシラの中で疑問は止まない。

 モモコとクロが追いつく。オハシラがどれだけ走ったと思っているのか。


「よう、マラソンかいおじーちゃん」

「元気じゃん、ワタシらの相手もしてよ」

「小童共が……!」


 一息、深呼吸。冷静さを取り戻すオハシラ。さあリベンジと行こう。


「神色総代、穿ち砕け」


 虚空から無数の槍が、透明なまま放たれる。しかし。


「いよいよ技、ご開帳かぁ……ご開帳ってなんかエロくNE?」

「下ネタNG!」

「はいはい、桃色飛沫、舞え」


 桃色の雨が降る。それは槍を掻き消し、オハシラを溶かした。


「っぐ!?」


 射程範囲から逃れる、オハシラ、しかし、その射程範囲は――


「この千本鳥居全域!?」


 雨は降り続く、尚も溶かされ続けるオハシラ。そこにクロの追撃。


「黒色一蹴、散れ」


 ドロップキック。完全に入った。しかしインパクトはそこまでではない。問題は。


(遅効性の毒!)


 ここまで重たい一撃。後から来るダメージを想像するだけで身震いする。


「これは出したくなかったんじゃが、ムラサキ」

「はぁい」


 カゲとヒナタを振り払って、ムラサキが現れる。


「神色天恵、神創受胎、廻れ廻れ」


 千本鳥居が崩れる。辺りが星空の平原に変わる。いやそれだけにとどまらない。北極、南極、火山、溶岩地帯、森林、海、川、都会、平原に戻って来る。回る回る。

 世界が回る、巡っていく。


「なんだこれ……?」

「並の技じゃない……気を付けてクロ」


 ムラサキが遊ぶ、遊ぶ。


「ぶーん」


 


「は?」

「避けるZE!」


 モモコに首根っこ掴まれ避けるクロ。

 次に、氷山がぶち当たる。

 その次に、隕石が降り注ぐ。

 さらに、さらに、さらに。

 攻撃は続く、自然現象、人災、問わず、ありとあらゆる災害が降り注ぐ。

 死の間際で躱すモモコとクロ。

 長くは続かない。


「アレを出す! 用意しろクロ!」

「りょーかい!」


 深呼吸、する暇も無かったが。それでもするしかなかった。


境界チャンネル合わせ、よし」


 超新星爆発というモノを知っているだろうか。

 星の最後の息吹、死の間際の最後の輝き、新たな星の芽吹き。その威力は人間には計り知れない……いやまあ数値化はされているのだが。目の当たりにする事はないだろう。

 その威力を再現した。と言って信じてもらえるだろうか。

 ありとあらゆる災害を吹き飛ばし、消し去った。そして、オハシラをも巻き込んだ。

 ムラサキはカゲとヒナタが技と幸運で保護した。

 残ったのは荒野、何もない爆心地。新たな星の欠片だけが残っている。


「う、ああ」


 オハシラ、だったもの。

 半端な残骸、もう頭しか残っていない。


「よお、元気ぃ?」

「やめとけって」


 オハシラは呻く。


「どうして負けた、人間如きに」

「ああ、それね、ちょーっとチートズルした」

 

 答えたのはアオだ。


「ず、る……?」

「そ、モモコには数百年分の幸運をつぎ込んだ」

「……は?」

「言ったろ、私の空色無式は時間も操るって、それでちょちょいっと」

「何故お主自身がやらなかった?」


 頭を掻くアオ。


「わっかんないかなー、器で御祓師サイキッカーなんだよモモコは? これ以上の適任がいる?」

「……そういう事か、初めから失敗していたな。まずはモモコを始末すべきだった」

「そーだね、他に遺言ある? 

「何故、儂を恨む?」

「生きるって辛いから、以上」

「……そうか、そうかもな」


 そう言って、オハシラは消えた。

 これで全てに決着が付いた。

 最初からアオがモモコに時間を注ぎ込んでいれば済んだ話だが、前の時間軸のアオはそこまでクレバーでは無かった。無理矢理ヒナタで拡張ブーストしようとしたほどだ。

 だがこれで完全決着だ、あと腐れなく、なんのやり残しもなく。

 ハイタッチするモモコとクロ。カゲとヒナタ。アオは宙で手を切る。すると。

 パァン。一瞬、アカとハイタッチした。そんな気がした。実際はムラサキだった。


「一人はさみしーよ?」

「……そーだな」


 帰ろう、公安御祓局に。

 皆で。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

サイコ・ガール+さいこうLOVE 亜未田久志 @abky-6102

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ