メイン05 武器と運命の鉱石

 まず始めに試すのは片手剣だ。こんなのフィクションの中でしか見た事ないよ。

 持ってみた感触を確かめて軽く振ってみる。感覚的には悪くない。振り回せないほど重くないし、形がシンプルなだけに一番使いこなせそうな印象を受けた。実際に使えるかは別問題だけど……。

 結紘が少し慣れたかな、と感じた頃。虹雛が我が物顔で前に立ちはだかる。


「ニヤついてないで使ってみなさい。相手になってあげる」

「ここで戦うのか?」

「何のために訓練場に来たのよ。そもそも戦闘訓練に来たんだから」

「うっ……やるしかない、な」


 片手剣も構え、よくわからないまま斬りかかった。とにかくテレビで見たように振ってみる。しかし、彼女は難なく避けて挑発してきた。

 一瞬カッとなりかけたが何とか堪える。簡単に短気を起こすようではダメだ。冷静に、冷静に。


(えっと、確かこんな感じだったかな)

「たあっ」

「まだまだ甘い。もっと鋭く斬りかかってきなさい!」


 それっぽく斬りかかるがまた躱されてしまう。全然かすりもしない。いや、当たったら当たったで嫌だけど。けど、やらないといけないんだ。

 いまいち戦い方がわからない結紘は抗いながら叫ぶ。


「鋭くってどんなっ」

「どんなって……そんなの自分で考えなさいよ」

「無茶過ぎるよ」


 唐突に始まった指導は、およそ指導と呼べるものではなかった。もしかして彼女は感覚派だったりするのだろうか。フィクションだと感覚派って先生には向かないんだよな。

 でもまだ、そうと決まった訳ではない。もう少し様子をみよう。諦めず剣を振り続ける結紘。


「でいっ、とう、やぁー!」

「ふん、全然当たる気がしないわよ。真面目にやってるの」

「はぁ、はぁ……真面目に、やってるよ」

「あらら……」


 全然進歩がない様子に桧杜が苦笑を浮かべた。彼こそ様子を見るつもりだったが、見ていられずに助け舟を出す事にする。

 少し待つように虹雛に指示を出して、結紘に歩み寄り基本的な使い方をレクチャーしてくれた。本来なら、同じような武器を使う虹雛が教えたほうがいい気もするんだけど……。



 彼らの様子を離れた所から見守る職員。

 母親と他の面々は結紘専用の武器をどのような仕様にするか、細かい所を詰めていた。見守っている職員から情報を受け取りつつ話を進めていく。

 原因が何にせよ、まったく能力も細工もない武器を渡す訳にはいかない。今設定しているのは、単純な強化の能力だけ。あの程度なら問題なく使えるようだ。


「うーん。彼の何が引っかかるのかなぁ」

「まだ判明しないの?」

「ええ。まだ情報が足りないのかな」


 今も原因を追究している面々も中にはいた。先ほど採取した情報をもとに調べているのに見つからない。本当に何が原因なんだろう。

 一方で教授は武器に設定する機能=特殊能力をを考えていた。しかし脳裏には別の事実が過る。


(やっぱりあの子が星装器と相性が悪い原因は……)


 いいえ、まだ決まった訳ではない。それに知られてしまう事はあの子にとってもいい事とは限らないのだ。むしろ更に危険な状況に陥る可能性もある。

 どうな秘密があっても、彼は自分の可愛い息子なのだ。


(そりゃ、いろいろ試せるのは嬉しいんだけど)


 ずっと試したくて仕方なかったも事実だ。研究者としての好奇心は教授にもあった。だからこそ、今までやってこれたという部分もある。家族としても。

 いろいろと思案を巡らせていると、自分を呼ぶ声が何度も響くことに気づく。慌てて返事をすれば「しっかりして下さい」と指摘されてしまう。


「それで何だっけ?」

「もう、聞いてなかったんですか。仕方ないですね~」

「あはは……ごめん」


 視線が痛い。またやってしまった。考え出すと周りが見えなくなってしまう。夢中になっても同じ事が時々起こったりする。

 周囲もすっかり慣れた様子で再度説明し直した。


「ですから、彼の能力を上手く利用できるような仕組みを構築できれば影響も少ないかと」

「そうね。で、具体的には?」

「そちらはまだ……何か使えるような素材あったか?」

「アレとかどうですかね。最近、第一部隊が外界で回収してきた」

「ああ、アレね」


 教授は再び考える。

 機動部隊の任務には、当然外界の調査も含まれるのだ。その際に入手してきた素材は殆ど各地の研究機関に譲渡される。それらから新兵器や道具を製造する訳だが。

 問題は使えるかどうかだ。教授は該当する物質の資料を取り寄せた。ファイルに収められた資料が届けられる。


 手にしたファイルを開き内容を再度読み込む。

 資料に記載されていた内容は「絆心結晶はんしんけっしょう」についてだった。またの名を、リアンクールクォーツ。ちなみに教授たちは後者で呼んでいる。


 この鉱石の見てくれは普通の黒い石。

 数ある外界の物質は単体でも効力を発揮する物が多い中、この鉱石だけは単体・同種間ではまったくの無力。その為に何の力もないと最初は思われた。

 しかし研究と実験を試みた結果、ある能力・特性がある事が判明。それは、多種の存在に対して強い反応を示し変化を起こす力だ。もとに戻る性質も持ち合わせており、反応の強さに応じてより強大な効力を発揮する傾向があった。


「まるであの子みたいね。試してみる価値はあるわ」


 教授は訓練場にいる結紘を呼んでくるよう指示を出す。



「さぁ、やってみて」

「はい。とうっ」

「うん。その調子」


 桧杜の指導のもとで剣を振る。その様子を端で見守っていた彼女が退屈そうにしていた。


「ねぇ、まだー?」

「もうちょっと待ってあげてね」

「実戦あるのみだと思うけどなぁ」

「ははは、いきなりソレできる人ばかりじゃないって」

「アタシはできたけど?」


 マジか、と心中で思いつつ素振りを続ける。もしかしなくても彼女って天才肌なのか?

 無心で剣を振り続けていると、上から職員が降りてきて呼ばれる。職員に連れられ二人とともに教授のもとへ行く。

 簡単な説明をされ、取り寄せた絆心結晶に触れて見るように言われる。結紘が恐る恐る触れてみると――。


「うわっ」

(なんだ!? 何だか不思議な感覚だ)


 黒いだけの石が淡く発光している。光の色は結紘の瞳と同じ空色と夕日色。そして不思議はほどに馴染む安心感。最初から身体の一部であったかのような感覚だ。

 なんとなくだけど、これなら上手く使えるような気さえした。


「おおっ! 凄い。この数値、見事に適合してます!」

「やはりこの鉱石との相性は抜群だ。むしろ……」


 彼の為に存在しているかの如き相性の良さだ。

 驚くほどに強い反応を示す石はなぜか変化を起こさない。


「おかしい。本来なら変化が起きてもいい筈」

「…………」


 結紘は黙したまま石から伝わる感覚に耳を澄ませた。

 自然と本能に訴えかける情報。それを上手く読み取った彼は特殊能力を持った何かがないかと願い出る。


 意図がわからずとも対応してくれる職員に感謝しながら、彼らが持ってきてくれた予備の武器に触れた。片方の手は石に触れたままだ。

 その状態で自身の特殊能力を使ってみる。この時、人前で力使うという抵抗感は完全に意識から抜け落ちていた。彼らには既にバレているから問題は起きなかったが。


 用意されたのは整備中に相手へ渡す予備のひとつ。武器名は「ミストラス」といい、様々な効果を持つ霧を発生させる支援タイプの剣だ。

 最初は手で触れてみたがどうも上手くいかず、石を直接触れさせて力を使う。すると、結紘の力の影響下に入った石が変化を始めた。形を霧状へと変えていく。

 その変化に周囲から歓声が上がった。しかもこの霧、思った通りに動かせる。


「お、これ形変えられるぞ」


 何かに変形させてみたい。そう考えて真っ先に思い浮かんだのはボールだった。いや、我ながらもう少しまともな物を想像できないのかと思う。

 でも、こればっかりは仕方ない。咄嗟の想像力なんてこの程度だ。

 結紘の意思を読み取って霧が球体を形作る。霧の球、スッケスケだ。ちゃんと触れるのかな。慎重に球に手を伸ばす。


「触れる。嘘だろ」

(これ霧の筈だよな。なんで触れるんだ!?)

「ふーん。面白いじゃない」


 興味を持ったらしい虹雛が生成された球体に手を伸ばした。しかし――。


「あれ、触れないじゃない! どういう事よっ」

「俺は触れるんだけど……」

「どれどれ。あ、本当だ」


 桧杜も同じように触れようとするが、彼女と同じくすり抜けてしまう。他の職員達にも同じ反応を示した。という事は、この球は操る本人しか触れられないんだろうか。

 他にも鳥や剣の形にも変えることができた。しかしどれも、持てるのは結紘だけ。


「これって便利、なんだよな?」

(よくわかんないけど偵察とかに使えたりするんだろうか)


 あ、でも物を持たせられないなら情報をやり取りする方法がない。でも元となった武器が持つ能力から得たんだし、使い道は必ずある筈だ。

 思いつく限りの行動をやってみる。とりあえず適当に触れてみよう。


「……イタッ」

「結紘クン、どうしたの?」

「あ、いえ。あそこの果物ナイフに触ってしまって」

「なるほど、痛覚はあるんだね。他の感覚は?」

「えっと。触感はあります」

「ふむふむ他には」


 順々に質問され、ひとつずつ答えていく。温度、味覚なんかもあった。音は……聞こえるものばかりじゃないな。視覚はどうやったらいいだろう。

 視覚に関して答えると、瞼を閉じてみるよう提案された。言われた通りにすると――。


「おお、見えます! 凄い」


 部屋全体を真上から見ている感覚に興奮してしまう。空を飛んでいるみたいで楽しいぞ。瞼を閉じていても自由に霧を動かせる。集中力と力が途切れなければ問題ないようだった。

 数分後、ちょっとばかりはしゃぎすぎて体力の限界を迎えてしまう。彼の様子に、この場にいた全員が笑っていた。虹雛が「バカみたい」と言っている。


「はぁ、はぁ、はぁ……キツイ」


 使い慣れていないのに調子に乗り過ぎた。結紘は、荒い呼吸を繰り返して大いに反省するのだった。

 その後、休憩を挟みつつ武器を選ぶ。本当に悩んだがちゃんと決めた。


「じゃあ、完成次第本部に送るわね」

「よろしくお願いします」


 今から出来上がるのが楽しみだ。武器だって言うのはちょっと怖いけど、憧れもする。ましてや自分専用だなんて気持ちが昂るというもの。

 きちんと任務をこなしていく中で、要望があれば叶えてくれるとも約束してくれた。そうやって皆、自分専用の武器を完成させていくのだろう。けど、自分はまだ駆け出しだ。

 その辺は追々考えて行く事にして研究機関を後にした。

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