メイン04 武器を求めて
愕然と立ち尽くす結紘。そんな彼に桧杜は思い出したといった様子で口を開く。
「あ……でもナビゲーターとしてなら、星装器に関係なく
「ナビゲーターですか?」
「そう。ウチだと彩乃ちゃんがやってる奴」
ナビゲーター、つまり通信担当の事だ。どの部隊にも必ず一人いるは役割である。
通信担当は基本的に本部で待機して様々なサポートを行う。前線で戦う訳ではないが、専用車両などで現場近くまで同行する場合もある。
え、それって戦わなくてもいいって役割もあるって事だよね。結紘は瞳を輝かせて懇願した。
「俺、それやりたいです!」
「無理じゃない。言っとくけど、彩乃はちゃんと星装器使えるわよ」
「え、でもさっき」
「まぁ、強制ではないって意味。基本的には変わらないかなぁ」
担当者は星装器の適合が必須ではないが、決して使えない者がなるものではない。使えるに越した事はないのだ。
彩乃の場合は15歳に達していないという理由もある。
別に出動・戦闘をしてはならないという決まりはないが、隊長である里道が部隊内で最年少の少女を不必要に戦わせたくないと配慮しているからだった。
「どっちみち、ナビはもう間にあってるもの。貴方はウチの部隊に所属するんだから」
どうあっても無理だ、と言い切られてしまう。
「そんなぁ~」
せっかくチャンスだと思ったのに。出鼻をくじかれた気分で肩を落とす。
結局は適性がないといけないって訳か。
「嘘だー。下手したら武器なしで戦うって事ですよね」
「まぁ、そうなるな」
当たり前のように言ってのける里道。彼の言葉に唖然とした。
ちょっと待って。嘘だよね。嘘だと言ってくれー!!
「俺、人前で能力を使うなんて嫌ですよ。丸腰なんて嫌だ、武器欲しいです!」
気がつくと結紘は、力の限り叫んでしまっていた。すると耳を塞いで凌いでいた虹雛が声を荒げる。
「男がワーワー喚くんじゃないわよっ」
「男でも嫌なモノくらいあるわ!」
「そんなの屁理屈よ」
「ああ。屁理屈だろうが何だろうが言ってやるぜ」
「まぁまぁ、二人とも」
会ってそれほど時間も経たない間に喧嘩を始めた二人。桧杜が間に張って宥めるが止む気配がない。
だって仕方がないだろう。駄々をこねるようでみっともないのは重々承知だが、俺にも譲れないものがある。丸腰外なのは本当の事だ。
でもそれ以上に、他人がいる中で自身の特殊能力を使うのはもっと嫌だった。そんなの自ら「人ではない」ですと認めたようなものだからだ。俺は人として生きていたい。
これだけは何を言われても諦める訳にはいかなかった。
不安を漏らしつつ、虹雛と桧杜に同行して貰って研究機関へと向かう。道中は桧杜が車で送ってくれた。
中央地区にある研究施設はかなり広大な敷地を有している。
当然ながら様々分野の施設があり、今回お邪魔したのはモンスター関連の研究を行っている施設だった。
「うわぁ、デケェ~」
見上げるほど大きな建物。当たり前だけど、想像よりもずっと大きくて驚く。
虹雛が「バカみたい」と突っ込んできて、ちょっと恥ずかしさを覚えながら中へ入った。静謐な空間が広がる内部は白系で統一されて開放感がある。入ってすぐの所に受付と観葉植物などが設置され、壁際には大きな水槽があった。
水槽の中には色とりどりの魚が優雅に泳いでいる。非常に綺麗だ。
受付で手続きを済ませて奥へ案内されていく。
途中で渡り廊下を通り、何度か角を曲がって別棟にある一室に通された。かなりの広さがある室内には数えきれないほどの設備が並んでいる。機械や机など非常に充実した研究スペースだ。
壁にはいくつか扉もあり、奥にはガラス越しの別室まで存在する。
「結紘、よく来たわね」
「母さんじゃないか。そっか、ここ……」
(母さんの職場)
「界導教授、本日はよろしくお願いします」
「ええ。こちらこそ」
結紘が呆けている間に桧杜らが挨拶を交わす。
三人を迎えたのは結紘の母親、界導明美だった。身長は157.6cm、体重は48.3kg。右利き。髪はライトブラウンで瞳の色は茶色で白衣を着ている。顔の容姿はお世辞にも結紘と似ていない。別に父親似って訳でもないんだけどね。
大方の準備はできているらしく、さっそく適正試験を受ける事になった。職員の案内で奥の部屋に案内される。同伴の二人はその場で待機だ。
部屋を移動した結紘は上着を脱ぐように指示され、身体に複数の器具を取りつけられる。その状態で試作型の武器らしき物を持たされた。何の能力もないタイプの星装器だ。
その状態で待機を命じられ、時には振ってみろと指示されたりする。
「へぇ。ちょっといいかも」
(うん。まだ慣れないけど使いやすい)
適当に武器を振ってみる。言い忘れたが、今回渡された武器は短剣だ。
モニターを確認しながら支持を出す職員達。
「んー、なるほどね。どう思う?」
「数値的には適性があるようですね。しかしこれは……」
「ちょっと気になるよねぇ」
「もう少し試してますか」
次に渡されたのは能力を持たせた武器だ。
能力自体はシンプルなモノで、誰用にも設定されていない汎用型。それでも適性がないと使えない代物である。適性があれば誰でも使える訳だが――。
「あれ? なんか変な感じ……」
(なんかスッゴイ異物感。全然慣れる気がしない)
「あのぅ、なんか気持ち悪いですコレ」
若干顔色の悪い様子で、モニターを睨む職員に報告する。
「あー、こりゃダメだな」
「ダメですね」
「困ったね~。コレ」
軽いノリでとんでもない言葉を零していた。
いやいや、困るんだってば。結紘は、「どうにかして下さい」と言わずには入れなかった。武器なしは勘弁して欲しい。本気で嫌だよ。
いつにも増して熱意のこもった懇願を投げかける少年に、職員達はある質問を投げかけた。それは特殊能力の事だ。どんな力なのか、本人の口からも確認しておきたいらしい。
結紘は体感でわかる情報を伝えた。
彼の話を聞いて職員達は、もう一度一番最初に渡した武器を渡す。情報を整理しながら他にもいろいろと検査した結果。
「結論から言うと、彼は一般的な星装器とは相性が悪いですね」
「ええっ!?」
はっきり言われた言葉に三人が驚愕した。
つまりこれって、武器なしで戦えと言う意味だろうか。でも言い方が少し引っかかる。一般的ってどういう事なんだろう。
「つまりですね。結紘君は特殊能力を持っている為に、星装器に設定している能力と反発し合ってしまうという事です」
「でも彼は、ヒナちゃんのマグナテリスと共鳴して見せましたよ」
あれはどう説明すればいいだ。そう言いたげな桧杜に彼らは答えた。
「検証してみないとはっきりした事はわかりませんが……。報告書を見る限り、考えられる可能性はひとつです」
「それは?」
「マグナテリスの時は、虹雛君を経由して発揮された力かと思われます」
「つま、間接的なら拒絶反応は起きないけど、直接武器から特殊能力の恩恵は受けられないって事?」
「はい。あくまで星装器の場合は、ですが」
通常の武器なら直接だろうが、何だろうが影響はない筈だろうという事らしかった。星装器が特殊な作りをしている所為もあるかもしれない。
まぁ、そうだよな。複雑な機械に試した事はないけど、鉢植えとかペンとも共鳴できたな。だいたいのものは使い道がわからない感じになっちゃったんだけど……。
なぜ星装器だけがダメなのかは残念ながらわからなかった。
「便利そうで不便な力ね」
「そこまで言わなくても……」
「まぁまぁ。僕からしたら十分に凄いよ」
「ありがとうございます。フォローしてくれて」
言いたい放題いう彼女と、励ましてくれる桧杜。
俺だって、好きでこんな能力を得た訳ではない。だから反論はしたがあまり効果がなかった。
「で、結局どうすれはいいんですか? 武器は?」
「焦らなの。大丈夫よ、ちゃんと考えてあるから」
「母さんっ」
やっぱり頼りになる人だ。思わず瞳を輝かせて母親である教授を見る。
結紘の母親である
彼女はさして気にした風もなく助手に指示を出す。助手が別室から台車を引っ張り出してきた。上に何かが乗せられている。台車は棚のように段々か区切られた作りだ。
複数用意されたソレは、今日のために彼らが用意した試作品達だった。もちろん、すべて特殊能力は設定されていない。
「まだ問題点が残ってはいるけど、まずはこれね」
台車の一番上に乗せられた武器を手に取る。教授が順に説明していく。
一番上に乗せられたのは片手剣だ。女性でも持てるような軽量。色合いは黒で統一されていて普通にカッコイイ。前衛向きの斬撃武器。
二段目にあるのは少し大きめの拳銃。色はシルバーと緑。ちょっと重いけど、持ち運びは一番楽そうである。遠距離から狙える射撃武器。
三段目にあったのは盾。大きさは控えめで丸く、色は青と白。腕に装着するタイプで内部に鎖が搭載されている。ブーメランのように飛ばせるらしい。中距離での打撃武器。
「さぁ、どれを選ぶ?」
「え……急にどれにするかって言われても。うーん」
(迷うな。どの武器が使いやすいんだろう)
どうしよう、全然わからない。説明は聞いたのに自分に合った武器ってどういうのだろうか。好みで選んでもいいと言われるが、さすがに命を預ける物を好みだけで選ぶのは気が引けた。
いつまで経っても決められない結紘。痺れを切らした虹雛が提案する。
「迷うんなら試してみればいいでしょ! 訓練場くらいあるんだから」
「あ、そっか。うん、そうする」
(訓練場があるなんて初耳なんだけどっ)
研究施設にあるのは実験場なんじゃ、とも思ってしまう。
でも訓練場があるのは本当で、部屋の隅にあった階段から先の地下にあるらしい。地下訓練場……秘密基地みたいだな。
早速武器を運んで貰って試してみる事にする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます