アナザー08 特訓開始!!
武器に続いて防具選びを始める
そうは言っても大した物を得られる訳じゃない。まだ駆け出し、いや初陣すらしていない段階では本当に最低限の装備を揃えるだけで精いっぱいだ。さして時間もかからずに調達が終わる。
つき合ってくれた二人のおかげで最初の装備選びはよかったと思う。
(でも、これからは自分で考えないとだよなぁ)
あまり戦いたくはないし、そういった状況にはなりたくないけど……。
でも護身に必要だとは思うし仕方ない。その後は特にこれといって事件もなく就寝する。否、いろいろあったことで不安と緊張が頂点に達していた。その結果――。
翌日、ラクーシャス・バーゼの門前。
「まったくたるんでいるぞ。覚悟が足りん!!」
「す、すみません。それとあまり大声は……」
頭に響く。結局、精神状態の関係で全然眠れなかった。
おかげで酷い寝不足で彼女の叱咤が耳に痛い。謝罪の言葉を言う傍ら大声で意識が飛びかける。
思えば昨晩の食事の時から問題があった。考え過ぎて食べた物への感想がまったく思い浮かばなくて。心ここにあらずといった感じで、入ってくる味に意識が向いていなかったような……。
その後、お風呂も、ベッドに入っても気が気じゃなかった。
(だって仕方ないだろ。この前のような奴を相手にするって考えたら……)
思い出してブルルッと身体が震えてしまう。震えを抑えるために腕を抱えた。
そんな結紘を見てカルスが呆れた様子で息を吐く。今から先が思いやられる、とそう言われている気がした。
結紘は「だから仕方ないんだって!!」と心中でそう叫んでいた。
「忘れ物はないな。さあ、出発だ!」
ルーチェの一言で彼らは歩き出す。
先を行く三人と一匹の背中を見ながら遅れないようについて行く。
拠点を後にした彼らは「クオルの森」に来ていた。
徒歩で数十分といった距離で、先日通った森とは反対方向にある場所だ。西側の道から町の外に出れば行ける。ちなみに前日は東側から町に入って、南のほうでも出入りができるらしい。
改めてみると、ラクーシャス・バーゼは三方向の出口へまっすぐ迎える地点にあった。Y字路の分岐点に建っているといったほうがわかりやすいかな。
ここの森は岩場や川、山など様々な所と隣接している。
森の中に洞窟や崖なんかもあり素人を特訓させるのに打ってつけだという。当然ながらモンスターもいるが、この辺りにいる奴は先日出会った奴らよりは初心者向きの強さみたい。
説明するルーチェは全然怖くない場所だと言うが……。
「いやいやいや――ッ。こわっ、無理無理!」
「ムキュゥ~」
早速というか、モンスターと追いかけっこする羽目に。
見た目はウサギに似た長い耳のネズミっぽい奴。身体もネズミとして見れば大きいが、モンスターの中ではかなり小さい部類だと思う。よく知らないけど。
だって2・30cmくらいしかないんだよ。多分小さい奴なんじゃないかな。見た目もあんまり強そうには見えない。むしろ見ようによっては可愛い、かも。だけど――。
(マジで無理。コイツがスライム級の弱さだとしてもッ)
「こらこら、逃げてばかりでは意味がないぞ!」
「そうは言いますけどっ。こんなん危険以外の何ものでも――」
「ムキュゥッ」
出会いがしらの解説では最弱といっていい奴だという。
そうだというのにこれは本気でヤバい。普通に町で暮らしていたらまず大きさに驚く。ネズミってもっと小さいよなと思う。初めてモンスター見たのだって昨日だぞ。誰が何と言おうと無茶苦茶だと断言できる。
人通しの闘争……実際には人間と
恵まれた環境で平々凡々と暮らしてきた結紘は、ゲームなら最初に出会う最低な経験値しか得られない雑魚にすら逃げ回る始末だった。我ながら情けないと思うがこれが現実だ。ゲームのようにはいかない。
そしてこの人達。まず実戦だ、という訓練方針がヤバかった。
道場とかで基本の動きを習うとかはなくいきなり現地。本物の敵を前にして解説を受けながら戦闘、なんてゲームっぽいチュートリアルは平穏暮らしの一般人にはキツイのなんの。こっちはつい先日まで学生だったんですけど、と文句を言いたくなる。
「ぎゃあぁぁぁっ。助けて死ぬぅ~!」
「ぎゃあぁぁ、ではない。武器を構えろ少年」
「ルーチェさん無茶です。……ていうか、誰でもいいから手伝って!!」
一線引いた場所で腕を組むルーチェと他二人。リーダーの肩に乗り応援する一匹。
いやいやいや、応援とかいいから助けて。せめて手伝ってよ!!
(普通、チュートリアルって誰か1人はサポートしてくれるのでは?)
「ムキュッ」
「うわぁぁぁーん。まだ追ってくる」
「ん。それ、逃げるから追われる」
「そうだぞ。力を見せないから舐められるんだ。少年、戦え」
「……ダッサ」
「そんな薄情な。そして今、ダサいとか言った奴いるだろ!」
無理言うな。こっちは初陣なんだぞ。
モンスターなんて本当見たことなかったんだ。強さ以前の問題なんだって。
いつまでこの状況が続くのか。結紘はまったく気が休まらない。戦おうにも振り返る度に数が増えている気がして気持ちが……というか完全に増えている。
「ムキュッ」
「ムキュキュゥ~」
「キュゥーッ」
「本当に増えてんじゃん。なんで、最初は一匹だったよねっ?」
振り返った瞬間、結紘はうっかり木の根に躓き転んでしまう。
これぞ好機とばかりに飛びかかるモンスター群。恐れに戦慄き身体が竦む。引きつった表情で瞼を閉じ身を縮めた直後、獣っぽい断末魔が轟く。
視覚を閉ざした所為で決定的な瞬間を見逃した。けれど、次に目を開けた時にはモンスターの姿がどこにも見当たらない。目の前に立つ後ろ姿はカロスか。これは倒してくれたってことだよな?
構えを解き振り向く彼と、歩み寄ってくる二人。
皆はやれやれといった様子を見せていた。想定よりも酷い有様だったということか。よくわからないけど、ちょっと落胆した雰囲気を醸し出している。
自分でも情けないと思い俯く。するとカロスのハッキリとした声が降ってきた。
「ホント、使えないですね。最悪です」
「――っ!?」
その言葉が内心を鋭く突き刺す。目を見開き、唇を引き結んだ。反論したくてもできない。悔しさと悲しみ、そして怒りに似たなんとも言い難い激情が押し寄せる。
(そりゃ、強くなるって決めた矢先にこの体たらくだけどさッ)
二の句を告げられない。結紘は引き結んだ唇を噛みしめて思いを飲み込んだ。
言われても仕方のないこと。わかっている。そんなことは自分でもよくわかっていたから。
「なるほど……この程度か」
(ルーチェさんまでっ)
出会った時から辛口のカロスはともかく、彼女にまで言われてしまうのか。これはちょっと傷つく。
「せめて棍棒を振り回すくらいはして欲しかったですね」
「んん~。厳しいかも?」
『まあまあ、まだ最初なんだから。これからでしょ?』
「ディオサさんっ」
唯一弁護してくれた彼女にパッと顔を明るくする。
まさか小動物姿の仲間に励まして貰えるなんて。一番野性とかに近い感じがするのに。あ、もしかしてディオサさんって野性育ちじゃないのかも?
それはさておき今は目の前の訓練だ。まずは助けてくれた礼を言わないと。
「えっと。助けてくれてありがとう」
「…………」
少し遅くなってしまったが言うことはできたな。声がちょっとか細くなってしまったけど……。
無言のまま振り向いたカロスは不機嫌そうだ。いや、どうなんだろう。そう見えるけど違うかもしれない。唇を尖らせ眉間にしわを寄せている。そんなどう捉えたらいいのかわからない顔をしていた。
なんともぎこちない空気の中、思案していた様子のルーチェが口を開く。
「さて、少年の実力はわかった。これはいきなりチーム戦は難しいかもな」
「まあ確かに高度な連携が取れるとは思えないですね」
「うっ……」
「ならまず誰か一人と組んで鍛えるか」
「ん。誰と組む?」
「えっ、もしかして選べるの? だったら……」
ラオムがいい。そう頼もうとした矢先に先手を打たれる。
「カロス、少年と組め。そして鍛えろ」
『ええ~』
組めと言われた二人が同時に声を上げた。
その声は微妙にニュアンスが違っていて、一方は待って欲しいという意味で、もう一方は面倒だから嫌だという意味でだ。
(ルーチェさん。いったい何を考えてるんだろ)
自分達のどこを見て組ませようなどと思ったのか。
何か意図があって? そうだとしても少し無理があるような。
大体最初からずっと険悪、は言い過ぎにしても上手くいっていないのに……。傍から見ても一目瞭然な不安定感だと思うんだけど。不協和音しか出なさそうな組み合わせに両者ともに顔を歪めた。
「嫌ですよ。こんなもやし以前と組むの」
「うわっ。更に降格してるし。俺も嫌だよ……怖いし」
「何か言いました?」
「い、いえ。なんでもありません!」
尻目に睨まれてしまい恐縮する。年下とは思えない迫力があった。
組むどころか距離を置きたい心境だというのに、ルーチェは意義を認めないと二人を叱咤する。それでも不服そうな結紘に声音の険を緩めて告げた。
「少年。カロスは我がチーム内で一番の手練れだ。組むなら最も安全な相棒だぞ?」
「えっ、ルーチェさんが一番強いんじゃないんですか!?」
驚きだ。てっきりリーダーであろう彼女が一番の手練れだと思っていた。戦闘力的に言ったら一番強いから皆のまとめ役をやっているんじゃないのか。
完全な思い込みをしていた彼にルーチェは更なる言葉を投げかける。
「確かに我々は星神種故に個々の能力が高い。身体能力的にも遜色はないかもしれん」
「は、はぁ……」
「だが、戦闘での強さはソレだけでは測れないものだ」
敵との相性や地形、天候などの様々な状況で変わるだろう。
一概に最強と言わしめる者はいないのかもしれない。だが、ある程度の強さというものはある。場合によって求められるものが違うけど確かに。
今回のように素人を鍛えるための補佐官には、突出した能力よりも一定のバランスが取れた戦力が望ましい。彼女はそう考えた。まあカロスに突出した能力がない訳じゃないけど……。
「カロスの能力は非常に便利で幅が広くてな。戦闘以外にも索敵や移動などで役立つ」
「それは過大評価のし過ぎです。ボクの力は自分が主軸ですからコレとは関係がありません」
「こ、コレって」
どんどん認識が酷くなっていっている。評価が急降下していた。
「でもいろんな場面で頼りになるのは確かだろう」
「ふふん、そうですね。ボクの実力は生易しくないですから」
「そこは否定しないんだ」
「ん~。カロス強い」
「当然です」
改めてこちらを振り向くルーチェ。
その視線はまっすぐとこちらを見据え、きっぱりと「とにかく組め」と命令じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます