メイン06 初陣
数日後、午前中。本部に完成した星装器が届けられた。結紘の専用武器だ。最初の希望通り(武器種)の物を見て満足感を覚える。これが俺の相棒か。
え、俺がどの種類を選んだって? それは……。
「まさか貴方が盾を選ぶなんてね。驚きだわ」
「そりゃどうも」
気が抜けた虹雛の声が聞こえる。そう、俺は三つあった中の「盾」を選んだ。選んだ理由は「命を守る」力が欲しかったから。
最初に使ってみた片手剣も他も凄くいい感じだったけど、別に自分は戦いたい訳じゃない。身を守れるものが欲しかったのだ。それに盾だからって攻撃できないと決まった訳でないぞ。実際にこの武器、投げられるみたいだし。
色は後で好きなように変更できるって言われたから、無難に黒ベースで白と青いラインが入ったデザインにして貰った。すっきりとしていてカッコいい感じだ。形状は当初のものと動揺に丸いラウンドシールド型。
素材や中央に輝くコア(核)に至るまで絆心結晶で作られた特別性である。コアっというのは星装器に必ずついている特殊能力の源となっている部分の事をいう。
もちろんコアの色は武器ごとに異なり、結紘のは少し灰色がかった黒。内部に銀粉が渦巻いている様が銀河のようだ。
虹雛の「マグナテリス」は赤、桧杜の「ディープサルト」は
「武器名は『バンデシルト』だそうだ。大事にしろよ」
「はいっ」
ちなみに剣だったら「ラソエスパーダ」、銃だったら「ノードストゥム」という名前になる。どれも黒ベースで、剣ならオレンジと白、銃なら緑と銀。
一応、三種類の武器について説明しておこう。
まず剣、ラソエスパーダ。片手で扱える軽量タイプ。
近距離での戦闘を想定して設計された斬撃武器。特に特徴らしいものがない分、最も扱いが簡単なのがウリだ。ステータスは攻撃型。
次に銃、ノードストゥム。両手で扱うのを推奨するタイプ。
遠距離での戦闘を想定して設計された射撃武器。弾丸は火薬を用いた通常暖の他に、特殊能力の効力を込めて打ち出す事が可能。ステータスは妨害型。
最後に盾、バンデシルト。腕に装着して装備するタイプ。
中距離での戦闘を想定して設計された打撃武器。鎖が内蔵されていて、ブーメランのように飛ばしつつ引き戻しも可能。ステータスは支援型。
特殊能力は共通して「同調」で、結紘の能力に反応して強い力を発揮する。本体全体が「絆心結晶」で作られており、発動した特殊能力に応じて形や性質を大きく変化させるぞ。
結局、大部分を作り直す羽目になってしまった。
「申し訳ないな」
「そう思うのは結構だけど、向こうは慣れっこだと思うわよ」
「へぇ、そうなのか?」
「まぁね。試作型の段階ですぐに使えるほうが稀かな」
個人の専用武器の性質が強い星装器は、一人一人がオーダーメイドで製造される。事前に希望を送る事も当然可能だ。しかし、細かい所など後からすり合わせる事は非常に多い。
完成してみたら、使ってみたら違う。自分にはちょっと合わない、等々。こんなのは日常茶飯事だった。大抵の場合は作り直しているのだ。
結紘だけが特別、という訳では全然なかった。
「あれ、他にも入ってるぞ」
星装器が入っていたケースに指輪も一緒に入れられている。同じ色のコアがついた指輪だ。指輪を見せて何なのか聞く。
「ソイツはデバイスリングだ。外界では命綱でもあるから失くすんじゃねーぞ」
デバイスリングとは、星装器と連動して武器の出し入れができる道具。通信担当への信号も発信しており、外界で遭難した場合は本当に命綱になる。
万が一にも紛失、破損、盗難にあった場合は早急に申し出たほうがいい。でないと命を落とす事にもなりかねないのだ。
リングの種類は指輪、腕輪、足輪、チョーカー、イヤリングの五種類。
特に指定せずにいると最初に送られてくるのは指輪になり、申請すれば後からでも変更が可能。実際、桧杜と里道は腕輪をしている。女性二人は同じ指輪だ。
(なるほど、これで武器を持ち運べるんだな)
「便利ですね」
「当たり前よ。どう考えても、普通に持ち歩ける訳ないでしょ!」
「あはは……そうだよね」
よかった。自分のは小型なほうらしいけど、あんなの普段から持ちあるくのは嫌だ。平然と携帯できる代物だとは到底思えない。
でもこれなら、普段は指輪の中に入れておけば非常時になっても安心だろう。
一通り説明を終えた里見が、全員に号令をかけて次の話題に移る。
「これより任務を言い渡す」
里道が壁に備えつけられた地図の前に立ち、任務の概要を話し始めた。
今回の任務は物資の運搬である。運搬先は空港の存在しない小さな町。その為、外界を進まねばならずこちらに話が回って来たという。
地図で示され、町の位置を確認するとそれほど遠くない事がわかった。
メンバーは結紘、虹雛、桧杜の三人。通信担当に彩乃がつく。
「実戦訓練も兼ねてお前らで行ってこい」
「隊長は行かないんですか?」
「ああ。こっちは別件でな」
それに、これくらいお前らだけでできるだろうと言ってくる。
いやいや待って下さいよ。自分は実戦経験がほぼゼロに等しいんですが!
素直に不安を漏らすと、彼は――。
「だから行かせるんだろう」
「で、ですよね~」
(大丈夫かな、俺)
有無を言わせず、必要な情報をさっさと伝えて里道は退出してしまう。
「ふぅ、やるしかないかっ」
(こうなったらやってやるぞ!)
頬を軽く叩いて気合いを入れる。
新人の様子を見届けた二人から準備をするように言われた。急いで準備に取り掛かり、荷物を受け取りに向かう。必要な物については二人にいろいろと聞いて準備した。
☘ ☘ ☘ ☘ ☘ ☘ ☘ ☘ ☘
物資を受け取り外界へと繰り出した三人。今回運ぶのは食料と薬類だ。小さいながらも荷馬車を引いて道中を進む事になるだろう。
「い、いよいよだな」
「しっかりしなさい。そんな調子じゃあ死ぬわよ」
「う、うん」
「ほらほら、もう少し肩の力を抜いて。まだ入り口だから」
大きな荷物がある為、襲われたら戦うしかない。気を引き締めて行かなくては。
二人に先導されて慎重に歩き始める。広大な森、見た事のない植物。空は高く、少し湿った土の匂いがした。獣や鳥の鳴き声が聞こえる。
森は複雑に入り組み、進めば進むほどに分かれ道があった。
「マッピングはちゃんとやっているかい?」
「はい。こんな感じだけど大丈夫ですか」
「どれ……うん、上手く描けているよ」
「ありがとうございます」
支給された簡易地図に印などを記入しながら歩みを進める。迷ったら大変だ。そこまで気にするほど急には変化しない、とは聞いている。だが時間が経てば変化していくのは間違いない。
外界は広いから、都市のようにすべてを固定しておく事はできなかった。
角ばかりの道を蛇行しながら歩き続ける。すると、進行方向が突き当りになっている所に行き当たった。さっそく問題発生だ。
「これは引き返すしかないね」
「はい。荷馬車を交代させます」
「アタシは向こう側に回って護衛するわ」
道幅が狭くて荷馬車を反転させられない。ひとつ手前の分かれ道までバックで進むしかないだろう。渋々引き返し始めた時だった。
「ん? アレは何だろう」
「どうかした?」
「えっと、何かあるみたいで……」
「ちょっと。気をつけなさいよねっ」
「わかってるよ」
突き当りに何か光る物を見た気がして振り返る。注意を受けつつ、結紘は恐る恐る近づいて確認してみた。慎重に、慎重に。
万が一に備えて武器を構えたまま前進し、光った部分を調べてみる。しばらく茂みを探ってみて枝の間に何かが引っかかっているのを発見した。
よく見えないかったが、気になるようなら手に取ってみるといい。
「あのっ」
「君が決めていいよ」
「は、はい。じゃあ……」
どうしても気になったので手に取ってみる事にした。十分に注意を払い手を伸ばす。
「つっ……」
「大丈夫かい!?」
「平気です。ちょっと怪我しただけ」
手に取ったのは抜身のナイフだった。刃に触れてしまい指を少しばかり切ってしまう。かなり古い物のようで所々錆びているものの、触るとそれなりに痛い。誰かがここを通ったのだろうか。
辛うじて伺える柄は緑色。刃には何か模様が刻まれているが、特に何かを感じる品物ではなかった。指の怪我は手早く応急処置をしておく。
「何このガラクタ」
「ははは。まぁ、こんなものだよ」
「ちょっと残念です。でも……」
誰かの形見という可能性もある。それに外界で入手できる物は、可能な限り持ち帰るように指示されていた。どこかで役に立つとは思えないが、布にくるんで荷物の中にしまう。錆びを落とせばまだ使える可能性もゼロではない。
結紘は「古びたナイフ」を手に入れた。
ひとつ前の分かれ道まで戻ってくる。
ようやく道幅を確保できて方向転換を行う。地図を見ながらまだ通っていない道を探して移動を再開した。そして少し広い空間に到達して――。
「ギャシャアァァァッ」
「っ、出た!」
「武器を構えなさい。行くわよっ」
別の道から小振りのモンスターが姿を現す。敵数は一体。
蛇に近い外見。鱗の色は紫で金色の瞳がぎろりと光る。モンスターとしては小さくても普通の蛇よりは大きい。奴は鋭い牙を覗かせてこちらを睨んでいる。
怖い。正直に言って戦いたくない。でも、ここは外界。戦わなければ殺される。
「大丈夫、ちゃんとフォローするから」
「ほら、貴方の訓練なんだから。とっとと行く!」
「はいぃ」
膝が笑っている所を叱咤され、肩をビクつかせて反応。言われて勢いよく飛び出す。
「はあぁぁっ」
「シャアッ」
「ひっ」
盾を構え、力の限り体当たりする。だが難なく弾き返され威嚇を返された。気圧されて後退る。そこに虹雛の怒号が飛んだ。
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