メイン07 自主練
「中距離武器の貴方がそんなに前へ出てどうするのよ!」
「ご、ごめん」
「本当、何見てたの。桧杜の戦い見てたでしょっ」
そういう事か。と言われても、あの時はじっくり見ている余裕なんてなかったよ。言われても困るというものだ。
この戦闘は結紘を慣らす都合上、他の二人はサポート重視で戦う。威嚇してくる敵に尻込みしている所へ桧杜が近寄って声をかけた。
「いい? サポート型の僕らがやる事は大きく二つ」
「は、はい」
「まずは全体の中間にいて味方の支援をする」
言いながら、桧杜は武器を構えて実演する。彼の武器は典型的な中距離型だ。ほぼ飛び道具と言っていい程に中距離戦闘に特化している。
右手に着用したナイフ(暗器)が内蔵されている籠手と、主に左手で扱う戦輪で一括りされた武器ディープサルト。特殊能力はまだ明かさないが、普通に飛ばすだけでも十分な威力がある。
巧みに武器を操る姿がカッコイイ。彼の武器は特に扱いが難しそうだから余計にだ。
「凄い」
「僕達は味方の穴を塞ぐのが主な役割になる。逆に言えば、僕らがきちんと機能してないと敵に攻撃を与える隙を生まれてしまうよ」
会話しながらだというのに一切敵に後れを取らない。訓練のために加減して対峙できる辺りに、彼の実力の高さが伺えた。手加減って強い人にしかできないと聞いた事がある。
少なくても今の自分には無理だ。敵と対峙するだけで精いっぱいである。
「もう一つは、後衛に敵が行かないよう防衛する事だ」
「防衛、ですか?」
「うん。今はいないから実戦で示せないけど、後衛はお世辞にも打たれ強いとは言えない」
むしろ撃たれ弱かったり、攻撃に時間がかかったりする。前衛と中衛に比べて威力の高い能力を持つ者が多い代償とも言えよう。
万が一にも後衛が攻撃を受けるような事態になれば、戦場全体が総崩れになる可能性も高くなり危険だ。後衛には防御に使える装備や能力が少ない傾向も影響している。
前衛が処理しきれない敵も当然いるので、中間にいるメンバーが最後の砦となるのだ。
(ああ、そうか。だから中距離なのに盾だったのか)
桧杜のように攻撃寄りのモノも当然ある。しかし、本来「盾」は前衛というイメージが強い。それなのに中距離武器で盾が存在するのはこういう事だったのか。
結紘は、明らかに中距離として不釣り合いな武器種の意味を初めて知った。
「ほら、敵の動きを鈍らせたわよ。今の内にやっちゃいなさい」
「うん。わかった!」
いつの間にかお膳立てをしてくれた虹雛。先ほどよりも明らかに鈍い動きの敵。これなら今の自分でもやれるかも。
気持ちを整えて武器を構える。大きく息を吸い込み、勢いよく踏み込んだ。さっきは近づき過ぎて怒られたから、少し距離をとって……放つ。
「えいっ」
ヒュンッ、と盾が敵に向かって飛ぶ。
まっすぐ正面から迫る盾を敵が辛うじて交わした。僅かに掠めている。
「惜しい!」
「もう下手くそ。なんでこれで外すのよっ」
「くっ、次は当てるよ」
ちょっと投げやりに言い放ち、盾を引き戻して再度投じた。動きが鈍っているのにまだ躱す気だ。
「結紘君、鎖も上手く使って」
「そ、そうかっ」
こう、かな? 結紘は飛ばしている最中に鎖を掴んで横に引く。
あ、鎖で怪我をしないよう支給しているグローブを着用しているから痛みは発生しない。湾曲して飛ぶ盾が容赦なく敵の身体を凪ぎ飛ばす。打撃攻撃でも痛そうだ。
派手に地を抉って飛んだモンスターが木に叩きつけられる。次の瞬間には泡を食って息絶えていた。指示されてきちんととどめをさせているかを確認。正直、気持ち悪い。
「……大丈夫です。死んでるみたい」
(おえぇ……)
モンスターだけど吐き気を催しそうだ。これが実戦、辛いな。
初めて自分の意思で戦って倒した敵。もしも人だったらと思うと悪寒が走る。こんな戦いが今後もあるんだ、と考えると気が滅入りそうになった。
「お疲れ様。なかなかよかったよ」
「ありがとうございます」
「何が『なかなかよかったよ』よ。殆どアタシ達のおかげじゃないっ」
「うっ……ご最もです」
「わかればいいのよ。次はちゃんとやりなさいよね」
桧杜とは違って虹雛は手厳しい。まったく対応が逆の二人に挟まれ、喜んだらいいのか反省すればいいのかわからなくなる。
桧杜も辛口発言が光る彼女に苦笑いを浮かべていた。この調子でこの先上手くやって行けるのか不安過ぎるよ。別に自分は戦いたい訳じゃないんだし。
(でも、戦えるようにならないとダメなんだよな)
せめて身を守れるくらいにはならないと。
結紘は、思いっきり頬を叩いて気合いを入れる。
「よし、次はもっと頑張ります!」
「うん。頑張れ」
「早く足手まといから脱却しなさい」
「はいっ」
意識的に気持ちを引き上げて再び歩き始めるのだった。
その夜は野営をして過ごす。一日で往復できる距離ではないから当然だ。
定時連絡を終えてから食事を済ませ、各自で自由行動をとる。結紘はArzuに入ってからやっている筋トレと自主練を行う。体力はそれなりにあるつもりだったが、戦闘をするとなれば話が別だ。全然ついていけない。
だから必死に練習している訳だが……イマイチ上達している感覚がないんだよな。
「だいたい盾ってどうやったら上手くなるんだ?」
練習のし辛さ、というか上達のイメージが湧かない所だけは後悔してしまう。
とりあえず、というのも変だが攻撃方法の復讐をした。今日の実戦では飛ばせるのを失念していたからな。次はそんな事がないようにしないと。防御の練習は一人でやるには難しい。
手頃なもので標的を用意して攻撃方法を反復する。しかし……。
「うーん。なかなか上手く飛ばないな」
勢いに任せて飛ばせば自分も引っ張られ、逆に弱いと途中で落ちてしまう。鎖が弛んだり方向転換させるのも難しかった。
つまり、戦闘でのアレはまぐれだったと。
(失敗してたらと思うとぞっとするよ)
「とにかく練習あるのみだよね。今度こそ」
よく狙って放つ。だが、僅かに掠めるだけで当たらない。
今回の標的は適当な樹木だったが、動かない相手にこの様とは情けない限りだ。この調子で動く敵に当たるようになるんだろうか。ものすっごく心配である。
気力と体力が続く限り撃ちまくる。今の命中率は一〇回中、一・二回当たるか当たらないかだった。驚くほどの低さだ。俺、戦いの才能ないかも。
「いや、まだ諦めるのは早い。今は……そう、目覚めてないだけだ」
強引にでもそう思うことにして練習を続けた。
まぁ、戦いに目覚めるというのも嫌な話だ。これはあくまでも護身だと自身に言い聞かせて励む。敵味方の命がかかっているのを忘れないように――。
思い出せば震えだしそうになる己を叱咤して身体を動かす。ただひたすらに、余計なことは考えない。
ただでさえ自分は特殊能力を使いたくない。外界なら人バレの心配がないから使ってもいいのだけど……。理由はどうあれ、能力を使いたくないなら自力で戦えるようになる他ないのだ。
それ以前に、結紘の能力は単体じゃあ効果が薄いのである。炎が出せる訳でも、水を操れる訳でもない。近くにそれらしいモノがあれば使えるだけ。なければただの「ヒト」だ。
シンプルに攻撃力のある力でないのは明白。だからこそ武器を使った技を磨かなければ確実に死ぬ。
「たあっ、えい、この! 当たれ、当たれって!!」
(チクショー。木に負けるとか悔し過ぎる)
「負けるかよ――っ」
夜闇に気迫が飛び交う。
明日こそはもっとうまくやれるようにと、結紘は必死だった。その晩は「休め」と言われるまで特訓は続いたのである。
結紘が自主練に励んでいる最中。
他のメンバー達は、素知らぬふりをして自由行動を堪能していた。離れた所から練習に励んでいる少年の声が聞こえている。
「頑張ってるね」
「当然、じゃなきゃ死ぬわ。……でないと困る」
焚火の傍で武器のメンテや食休めをしている二人。
暗いので姿は見えないが、そう遠くない所にいるのは声と気配でわかる。道具を使って地形を固定しているし危険地であるから当然だ。それくらいは彼だってわかっているだろう。
昼間はキツイ言い方をしていたが、虹雛だって心配じゃない訳ではない。彼を誘ったのは自分だ。本当に危なかったら助けるし、特訓するのも当然と思うのは死んで欲しくないからだ。
桧杜もそれをわかっているから何も言わない。結紘が一人で練習していることも含めて。手伝ってくれ、と言われれば手伝う。でも今は必要ないようだから放っておく。
「いつ言うかね?」
「何が」
「手伝ってってさ。彼の武器は仲間あってこそだろう」
受け身は攻撃役がいないと難しいでしょ、と笑っている。虹雛はやや仏頂面で返答した。
「そんなのアタシが知る訳ないじゃない。いつか気づくでしょ」
「うん。待たされるってじれったいよね」
その発言がちょっと気持ち悪いのだと虹雛にツッコまれる。
別に他意はないよ、と軽く反論して各自の作業に戻った。本日は比較的平和に一日が終わったと言えよう。
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翌日、道中の中ほどまで来た第三部隊の三人。
別に戦いたい訳ではないから、避けられる戦闘は避けてきた。怪我を負えば薬が減るし体力だって限界がある。
治癒魔法? そんなものはない。少なくても人として生きる上では。星装器の中にはそんな能力の物があるかもしれないが、第三部隊の面々にはいないと聞いている。
全体の地図と、外界でのメモ書き、方位磁石などを参照して慎重に移動した。
モンスターの気配にも十分注意を払って進む。しかし、そのすべてから逃れることは不可能で……。
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