第5話 その言葉を聞いて、俺は思考が固まった。
周りの話を聞くに、どうやらあの人は風紀委員の篠田という人らしい。
そうか、全校集会の時に先生たちと並んでるのを見てたな。
「おい、人間、ちょっと助けてくれ」
帰り道、納得感と共に頷いていると、クロスケが声を掛けてきた。
「クロスケ、なんかあったの?」
排水溝に落ちたとかならまだしも、川に落ちたりしてたら大変だ。
「見たら分かる。早く来てくれ!」
走りだしたクロスケを追って、俺は道を進む。猫らしく、狭く入り組んだ道を通って、クロスケに追いつくと、奇妙な光景が広がっていた。
「……」
「……」
篠田さんが野良猫を睨んでいた。
見ていたとか、見つめていた、眺めていた、みたいな優しい表現が出来ないほど睨んでいた。少しでも動けば殺られる。そんな雰囲気を感じる。
猫の方も猫の方で、完全におびえた視線を篠田さんに向けていた。
「かれこれ三十分はこのままなんだ。どうすればいい?」
「えっ……これを、俺にどうにかしろって言うのか」
いやいや、こんなおっかない状況をどうにか出来るほど、肝が据わってないぞ……
「人間だろ! 何とかしてくれ!」
「無理、無理無理、怖いもん!」
「っ!! 誰だ!」
クロスケと言い争っていると、篠田さんに聞こえたようで、すさまじい威圧感がこっちに飛んできた。
「やべっ、逃げよ……人間! 後は頼んだ!」
「嘘だろ!?」
振り返った時には、クロスケの影がはるか遠くに見えていた。マジかよ怖え……
「お前は……」
「ど、どど、どうも」
こ、殺される。そんな感覚が背筋を這いあがってくる。ちなみに睨まれていた猫は、そそくさと逃げていった。
「教えて欲しいことがある」
「な、なんでしょぅ……」
身長は篠田さんの方が低いのに、威圧感からそんな風には全然感じない。ぶっちゃけめちゃくちゃ怖い。
「……」
なんだ、今日は厄日か? 猫と話せるようになった日でも、もう少し手心あったぞ。
恐る恐る篠田さんの顔色を窺うと、目が合ってしまう。視線だけで心臓が止まりそうだ。
「猫……」
しかし、そんな表情から漏れた言葉は、意外な単語だった。
「ね、猫?」
「猫と仲良くなるにはどうすればいい? 教えてくれ」
それが、俺と篠田さんが初めてした会話だった。
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