第6話 次の日から、篠田さんには師匠と呼ばれるようになった。
「で、つまりは俺たちに好かれるために、あんなことやってたのか、この怖いメスは」
「……」
「まあ、そうなるね……」
なんとか篠田さんのコワモテをやめさせると、俺はクロスケを探して連れてきた。
「バカだろ、せめてお前みたいに愛想良く、安心感ある話し方をしろよ」
「そう言わずに、それに篠田さんは美人だからさ」
陰キャでコミュ障な俺にその評価は間違ってる。とは言わない。なんかちょっと嬉しかったから。
「はー?? 美人だから何しても許さ――おぉぅ……」
「ほらほら、怒らない」
不機嫌そうに欠伸をするクロスケを撫でてやると、気持ちよさそうな吐息が漏れた。
ちなみに意思疎通が可能になったおかげで、俺の撫でスキルは至高の領域に到達していた。
癖や個体差を判別して、最も効果的な箇所を最適な強さで撫でられる。その気になれば、一撫ででどんな猫も腰砕けに出来るレベルだ。
「お前……腕を上げたな……」
「どういたしまして」
地面にへたり込むクロスケが、恍惚とした声を上げる。
「……すごいな、君は」
その様子を見ていた篠田さんが、感心したように声を漏らす。その表情はものすごく羨ましそうだった。
「あっ……えっと、篠田さんも、その……やって、みる?」
なるべく平常心を保とうと思うものの、人相手だとどうしても、クソ雑魚メンタルのせいでまともに話せない。
「いいのか?」
「大丈夫だと、思う……俺と同じくらいの強さで触って、あげて」
篠田さんを手招きして、彼女がしゃがみこんだところで撫で役を交代する。
「篠田さんがこれから撫でるから、じっとしててくれよ」
「ちっ、しょうがねえな、あとで付け根をトントンしろ、それでチャラだ」
クロスケは不承不承という態度でじっとしている。篠田さんはそんなクロスケを、恐る恐る撫で始めた。
「こ、こうか?」
「違う違う、もっと強くてもいい、このくらい」
「っ!?」
空いている手を掴んで、力加減を教えてあげる。
「さ、撫でてみて」
「ああ……」
力加減を教えて、撫で方を教えれば、とりあえず第一段階は突破だ。俺は篠田さんの手を握りながら、細かく指示をしていった。
――
「今日は助かった」
「あ、はい……どういたし、まして」
篠田さんは立ち上がると、まっすぐ俺を見て礼を言った。どうやら猫に懐かれている俺が羨ましかったらしい。
「さて、私は帰らせてもらおう。しかし、初めてだったな、会ったその日に手をあんなに握られるのは」
「えっ? ……あっ」
「ではまた明日、学校で会おう」
篠田さんは幾分か柔らかくなった表情で手を振り、俺とクロスケを残して帰っていく。
「……」
俺はと言うと、無意識に握っていた手の感触を、今更ながら意識してフリーズしていた。
「おい、付け根トントン……ってきいてねえな、こいつ」
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