第16話 友達の言葉が傷口にしみて、ちょっとウルっと来た。

「いやーたすかった……ってなんで凹んでんだ?」

「ちょっと、ね」


 戻ってきたクロスケに、天ヶ崎さんに言われたことを説明する。


「別に気にすることないじゃん? 俺なんか前を通りかかっただけで嫌な顔されるんだぜ」

「そういえば黒猫ってそういう迷信あったね」


 寒々とした風を受けても、クロスケは飄々と道を歩く。その堂々とした振る舞いに、俺は一種のあこがれを感じずにはいられなかった。


「だからまあ、そんなに他人の目を気にし過ぎても、しんどくなるだけだぞ」

「そういうもんかなあ」


 確かに、天ヶ崎さんに言われなければ、篠田さんとは純粋に友達付き合いしていると思っていたし、こういうのは考え方次第……なのかもしれない。


「ま、とにかく俺は猫だって理由で追いかけてくる奴より、お前の方が好きだよ」

「そりゃまあ、クロスケは猫だもんな」


 ふふん、とクロスケが鼻を鳴らすと、篠田さんが道の向こうから歩いてくるのが見えた。


「あ、篠田さん」

「師匠と……クロスケか」


 軽く会釈をかわして、篠田さんはクロスケを抱き上げる。クロスケは憮然としながらも、抵抗する事は無かった。


「篠田さんは見回り?」

「ああ、師匠はまっすぐ帰っているようで安心した」


 何気ない会話を、普通にこなせる。陰キャでコミュ障な俺にとって、この進歩は大きなものだった。


「……篠田さんはさ、猫をダシに女の子に近づく男ってどう思う?」


 俺は、思い切って篠田さんに聞いてみることにした。


「なんだ、誰かにそう言われたのか?」

「あははは……まあね」


 隠せないなぁ、篠田さんには。


「私自身、そういう輩には好印象を持っていないが、師匠は違うだろう」


 篠田さんは、俺の方を見ずに話す。それは後ろめたいとか、嘘をついているというわけではなく、自然体で接してくれているのだ。俺は、そんな篠田さんを横目で見るしかできなかった。


「なんせ、師匠は猫の方が寄ってきているからな」

「……確かに」


 いつの間にか、背後には数匹の野良猫がついて来ていた。

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