第24話 ちなみにお爺さんはしばらく後に管理人さんに怒られていた。
「! 悪い、ちょっと行ってくる!」
俺の腕の中でぬくぬくしていたクロスケは、公園で野良猫に餌をやってるお爺さんを見ると、一目散に走って行ってしまった。
「おらぁっ!! 食わせろやぁ!!!」
「何よあなた! この缶は私の物よ!」
「ふざけんな! あとから来た奴が俺より多く食えるわけねえだろうが!」
耳を覆いたくなるような口論が聞こえてきて、俺は苦笑いをする。
「あーあ、猫ちゃん取られちゃった」
「師匠、あれはルール違反だろう」
「ま、まあそうなんだけど……」
天ヶ崎さんと篠田さんは口々に残念そうな声を上げるが、猫の言葉が分かる分、俺はお爺さんを責める気にはなれなかった。
「その、多分クロスケ……えっとさっきの黒猫は、食べ終わったら戻ってくると思うから」
俺にだけ聞こえる醜い争いと、それを全く知覚せずに朗らかな笑みを浮かべているお爺さんから少し距離を取って、俺達は食事が終わるのを待つ。
「てか陰キャ君」
「あ、は、はい」
お爺さんの姿を遠巻きに観察していると、天ヶ崎さんが口を開く。
「あーしの事苦手?」
「あ、に、苦手じゃない、です」
ただ、人づきあいが苦手なのと先日の一件があるから必要以上に緊張しているだけである。
「かなみ、何か変な事を言ったんじゃないか」
「えー……なんか言ったかなぁ」
篠田さんの指摘に、天ヶ崎さんは考え込む。しばらくの間考えても答えが出なそうだったので、俺は雪を振り絞ることにした。
「え、っと、その、こないだ猫を追いかけてる時――」
「ん? ああ、あの時!」
そこまで言って、天ヶ崎さんは思い出したというように両手を叩く。
「ごめんごめん、その前に猫をダシにナンパされてさー、ムカついてたんだよね」
「あ、あはは、そ、そうなんだ」
良かった、遠回しに俺をディスってる訳じゃなくて良かった。俺は安堵から全身の力が抜けてしまった。
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