第22話 天ヶ崎さんは意外と悪い人じゃないのかもしれない。

「じゃ、陰キャ君指導よろしく~」


 不名誉なあだ名で呼ばれることになったけど、天ヶ崎さんは特に俺に対して悪感情は無いらしい。


 そういう訳で、俺は篠田さんも含めた三人で、帰りにコンビニに寄っている。風紀委員の彼女を連れての寄り道は中々スリリングだったが、篠田さん自身も猫と戯れることが楽しみそうだったので俺はこっそりと胸を撫で下ろした。


「あ……」


 そうだ、ミケ用に金の猫缶を買わなければ、俺は二〇〇円近い猫缶を一つ持ってレジに並ぶことにする。


「え、何? 餌で釣るわけ?」

「い、い、いや、これ、家の猫用なんでっ」


 猫師匠っていう割に、餌を使って猫を寄せるのか? と言われているような気がして、慌てて取り繕う。天ヶ崎さんの声が一段低いものになったような気がして、俺は喉元に刃物を突き付けられたように錯覚した。


「そうだぞかなみ、野良猫には餌をやってはいけない。それは知ってるだろう」

「そ、そうそう! だから俺たちは、餌なしで引き寄せないといけなくてっ」


 篠田さんが味方してくれたので、追加で理由を教える。あのおじいさんの二の轍を踏むわけにはいかないのだ。


「ふーん……あ、おにーさん、これもお願い」

「えっ、わぁっ!」


 そう言いつつ、天ヶ崎さんは俺の猫缶を取り上げて、ガムと一緒に支払いを済ませてくれる。


「あ、あまっ、天ヶ崎さん!?」

「めっちゃテンパってんじゃん。ウケる」


 タッチ決済でパッと支払いを済ませた彼女は、笑いながら俺に猫缶を投げてくれる。


「別に陰キャ君宛てじゃないし、おうちのネコちゃんによろしく言っといてよ」

「あ――うん、はい。伝え、ときます」

「ぷっ、伝えときますだってさ! 友紀、こいつめっちゃ面白いじゃん!」


 天ヶ崎さんは篠田さんの背中をバンバン叩いて大笑いする。


 ……たしかに、よく考えてみると猫と意思疎通ができる前提で話すのはおかしいよな。俺は自分の言ったことを反省した。

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