第10話 癒されに行ったと思ったら胃に穴が開くかと思った。

「あら、お客さんこういうお店初めて?」

「うっそぉー! こんなテクで家には一匹だけしか飼って無いの? もったいなーい」

「うーん、わたしぃ、ちょっと疲れちゃったから、お膝貸してほしいなぁ」


 漫画とかドラマで見聞きしたような、客に媚びた声がどんどんかかってくる。ただし、猫の。


「すごいな、さすがは師匠」

「あはは……」


 ちなみに今、俺は店中の猫に群がられている。これは両手に華と言って良いのだろうか?


「あ、篠田さんは、大丈夫? ……なんか、俺だけ独占してるけど」

「大丈夫だ。師匠が横にいるから私のところでも猫がくつろいでいる」


 篠田さんはリラックスした様子で紅茶を飲んでいる。


「……」


 今、私服の女の子が隣にいる。彼女自身も魅力的だったのだが、俺の脳内では、小学校以来初めてのイベントに、スパークがひっきりなしに弾けていた。


 どうにも落ち着かない為、猫たちを撫でる手に熱がこもってしまう。その結果、この店にいる猫たちに「このお客さんの撫でスキルがヤバい」と周知され、猫がどんどん寄ってくる。という異常事態になっていた。


 ……周囲の視線がめちゃくちゃ痛い。


「はいはい、このくらいにしようね、俺も食事したいからさ」

「あんっ、いけずぅ」


 猫をどかして、俺はケーキをすくって食べる。うん、味は間違いなくおいしい。おいしいんだけど……


「ね、ね、次はいつ来るの? 私の事指名してほしいなぁ、火水日でシフト入ってるからぁ、その時だったらサービスするよ」

「私は日月金シフトだからその日でもいいわよ、次来たときはゆっくりくつろぎましょ?」


「また来るとしたら日曜日かな、というか指名するまでも無く、みんな僕のところに来るじゃないか」


『いえてるぅ~』


 そうは言ったが多分もう来ない。周囲の視線が痛すぎるから。

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