覆面ヒーロー

譲羽 命

逃走

辺りは炎に包まれている。

俺と弟は小さな手を強く握りしめ,赤い世界を走り抜ける。

背後から聞こえてくる怪物達の怒号に耳を塞いでしまいたい。

でも,耳を塞いではいけない気がした。

今,塞いでしまったら

あの監獄に

あの地獄の日々に

戻ってしまう気がした。

なら,今は逃げなければ。

鬼達から。怪物達から。

両親はもう,死んでしまったのだろうか。

弟を,俺自身を元に戻すことはできるのだろうか。

様々な不安が押し寄せてくる。だが,今はそんなこと関係ない。逃げることだけに集中しよう。

走って,走って,走って。

出口だ。

重い扉を開いて,弟の手を握りしめ,暗闇に飛び込む。

重力に従って,俺達は闇の中に投げ出された。


世間的に怪物と見られてしまう俺達はこれから生きていけるのか。

そんなこと,わからない。

でも,頑張らないと。

弟を守らないと。

まず始めに,居場所を見つけなければ。

二人で逃げ出せたのは奇跡なんだ。


あぁ......もう......


瞼が重くなり,辺りはさらに闇に呑まれていく。

意識が消えていく。


脳裏に浮かんだのは,今までの幸せな時間と,地獄の日々だった____。

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