12. 悠也の脱走劇

 小さな頃。兄妹の中でも特に悠也は。

 何をするにしても、どこへ行くにしても。ちょっと目を離すとすぐに。

 ――いなくなる。

 

 スーパーでいなくなる時、大抵の場合どこに行くのか、ある時真陽は気づいた。

 要は、悠也の興味のあるものの場所だ。


 店内でいなくなると、まず真陽は、出入口へ向かう。ほとんどの場合は、自動ドアで遊んでいることが多い。

 しかし、そこにもいないとなると。次は、おもちゃやお菓子のあるコーナーだ。

 けれど、そこにもいない。となると、もう最終的に。

 ――店の外へ、行ったかもしれない。

 しかも、はいはいやらつかまり立ちくらいで、道路を横断することもあったくらいだ。



 その日も。

「……あれ、悠也は?」

「え、またいなくなった?」

 とあるスーパーに、家族で買い物に出かけた日。またもや悠也が、いなくなった。

 という時には。

「じゃあ、探してくるね!」

 タッタッタッ、と真陽は現在地のすぐそばの、 お菓子コーナーへと向かう。

 ひょこっと、コーナーを覗いてもいない。

「……また、自動ドアかな」

 と、自動ドアのある出入口へ向かっても。

「ゆうー? どこ〜?」

 なかなか見つからず、店内もひと回り。それでも見つからない。

 もしかして、と。

「ねえ、どこにもいないよ?」

 七瀬たちと合流して、うーんと、考える。

 こういう時、父の雅司は、あまり役に立たない。というか、呑気なのだ。

「そこら辺にいるだろう」

 しかし、なんとなく嫌な予感がする。

 「……ちょっと、外見てこようか」

 真陽の提案に、七瀬は頷く。ちなみに、旭はこういう時には「我関せず」を貫く。


 外へ二人出る。

 見つからない。

 ……――いや、いた!

「あ! あれってゆうだよね!?」

「ん? え、うそ!?」

 なんと、この時も。道路をまたいだ先の道にいた。

 信号も無いところなのに。車も多い中、どうしてそこにいるのかはわからないが。

 とにかく、見つけたことに安堵する二人だった。


 ――拝啓、悠也へ。

 一体どうしたら、そんなところまで行っちゃうのかな。

 ゆうも、あさもケロッとしてるし、父さんは能天気だし……。

 ちゃんと見ているつもりだったんだけどな。たぶん、ナゾはナゾのまま、なんだろうね。あなたの考えることは。

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