11. 真陽の最凶の出会い、弐

 真陽が思うに。

 梨子は、大人に甘やかされて育ったのだろうなと、思える子だった。

「おばあちゃんがね、何か欲しいものはないかって、うるさいの。ふふっ」

 そして、かなり攻撃的だ。

 小学校の、いつもの遠回りな帰り道。

 雨上がり、傘を振り回して何をしたいのかと、思っていたら。なぜか真陽から傘を奪い取って。


 ――投げた。道路へ。

 

 しかもそれは、保護者パトロールで、母の七瀬が一緒の時ですらしたのだから、驚きを通り越して、呆れる。それと、遠回りの道へと強引に連れて行かれるのもいつもと変わらない。

 もう一つ。

 雨上がりの日は、傘は「剣」になるらしく、梨子は剣を振り回す。そして、真陽へとぶつけてくるものだから、仕方なく真陽も「剣」で防御するしかなかった。

 その光景は、七瀬にはなかなか衝撃的だった。

 その様子を、梨子の母にそれとなく電話で伝える。

 しかし。

「あら、そうなの? でもきっと、他意はないわよ。子供の遊びでしょ」

 そんな風に、返された。


 つくづく、井浦梨子という人物が、どれだけ甘やかされて育ったのかが裏づけされる。

 けれど当時、真陽には「自覚なきいじめ」という発想がなかった。



 今でこそ、真陽は洋服や持ち物に、ピンクや赤など、女性らしい色を好んで持つようになったが。

 当時よく、こうも言われた。

「まひるには、明るい色は似合わないよ。ピンクもオレンジも、もっと元気さがないと! わたしみたいに!」

 ピンク色の傘を手にしながら、梨子はそう言った。

 運動嫌いがなにを言うか、と。思わなくもなかったが、歯向かうと後が痛い。だから、はいはいと大人しく頷いて、従っていた。


 学校の帰り道は、今思うと散々なものだったと思う。

 自分の、本当の通学路なのに、そこを通らせてもらえなかったのだから。かなりの遠回りだった。


 真陽にとっての、何よりもの救いは、高校での出逢いだったろう。

 その話は、また今度。


 ――拝啓、…………。

 やっばりいいや。もう疲れた。

 さっさと寝よう。

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