2. 障がいがあること

 子供たちが、まだ幼かった頃。母、七瀬はよく独りで泣いていた。

 その背中に、真陽はどんな言葉をかけたら良いのか分からず。ただ、遠くから見つめるだけだった。


「障がいがある」


 それは、真陽のなかではさほど気にすることではなかった。少なくとも、子どもの頃は。

 しかし、世間は。

 特に、七瀬にとっての義理の母。つまりは雅司の母は、とても気にしていた。

 手を上げられることと、言葉を投げられること。どちらの方が痛いのだろう。

 想像でも、どちらだって嫌なことには変わりない。


 ――拝啓、世間さま。

 どうして、「しょうがい」があることで、お母さんは泣くの?

 しょうがいって「悪いこと」なの?


 だったら、わたしはもっといっぱい、頑張って。お母さんが、泣かないですむようにしたい。

 でないと、きっと自分も笑えない。



 真陽とて、「拝啓」を書けばその次の文、そして「敬具」を付けなければ、ちゃんとした手紙にならないことは分かっている。

 「分かっている」から、あえてつけていない。

 きっと、誰に読まれることなんてないから。読まれることなんて、なくていいから。

 入るのは、自分の気持ち。その整理の為の意味もある。

 真陽の、本当の願いは。涙ではない。

 彼女には、ある想いがずっとある。それは。


 ――やってみなければ、なにも分からない。


 

 

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