15. 真陽の奮闘と、真似っ子の旭と悠也、壱

 それは、真陽がまだ幼稚園児の頃の出来事。


 真陽が、幼稚園で「ひらがな」を習った年の夏休み。

 悠也や旭には、「やらなくても怒られない宿題」が出されていて。

 ちょうど、悠也は「ひらがなの練習」だった。

 なら、と。



 悠也の宿題を、テーブルに広げて、えんぴつと消しゴムを用意。そして二人、向かい合わせに座れば、準備は完了。



「さ、やろう!」

 と、まずはえんぴつに慣れさせるところから始めた。なにせ、悠也が家でえんぴつを持つことなんて、そうなかなかないのだ。

 「まーるかいてちょん」の感じで始まり、問題は「あ」の書き方だ。

 本人の思うままにさせると、字ではなく何らかの絵……のようなものとなってしまうため、真陽は考えた。

 そして、向かい合わせから、隣に並んだ。

 悠也がえんぴつを持つ上から、その手を握り、手を動かす。

 それはまるで、船の舵取りのようだ。手が重い。なかなか力が必要だった。

 そして、終わる頃にはちょっとは手が軽くなった……ような気もした。

「……うんうん、いい感じだね!」

 真陽としては、これだけで終わりなのかという脱力感もありつつ。それでも、「全部終わった」という達成感もある。なんとも矛盾しているものだ。

 まあ、悠也が飽きてきてもいたから、これくらいがちょうど良いのだろうか。

 試しに、「どうだった?」と聞いてみれば。

「あぁ、うん。楽しかったよ!」

 それは、悠也のよく言うセリフでもあるが。

 まあ、この飽きっぽい兄が、最後まで耐えたのは、素直に褒めておいた。



 後に。

 完成した宿題に対して、その当時の担任からは、

「最後までよく頑張ったね! 妹さんもえらい!」


 七瀬の記憶いわくは、そんなようなコメントがつけられていたとか、なかったとか。



 このように、真陽から悠也へ何かを教えたことは多々ある。……今となっては忘れられていることも多いが。

 そして。真陽本人の記憶にないことで、旭と悠也に与えた、大きな影響もあったりする。

 それは、また次の話で。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る