19. 旭へ対する読解力

 ある日の、旭と真陽の会話。


「…………」

「ん? あさ、なにか話あるの?」

「……(コクリ)」

 ジーッと、目で何かを訴えるのは、旭のよくやる「話したいことがあるとき」の行動の一つだ。

 それも、親ではなく、妹へ。

 母の七瀬いわく。

「親より、兄妹のほうが効く」のと、あとは。単に真陽の聞き方が、旭にとってはちょうどよいのでは、と。


 その日の話は、仕事先(事業所)にて、旭のトーキングエイドに興味を示す人がいて、そのひとが、旭からすると、「うるさい」とのこと。


 ジェスチャーとトーキングエイドを駆使させると、こんな会話。

「〇〇クン、ハナス」

「お昼とかに?」

「(コクリ)、(食べるジェスチャー)、ウルサイ」

「お話好きなひとってことかな? お昼によく話しかけてくるってこと?」

「……、(悠也を指さす)」

「ん? えぇっと……? あ、もしかして、ゆうに似た感じのひとなの?」

「(コクリ)」

「そっかあ、それは難しそうだね……?」

「(コクコク)、サワル」

「え? なにを?」

 文字に起こすのは簡単だが、実際はそうでもない。旭のよくやるジェスチャーは、自己流のものだし、トーキングエイドも、短い文でも旭にとっては難しい。1音に時間がかるし、誤字もよくあるので、なかなか根気が必要だ。


 これまで、短くても10何分。最長記録では2時間ほど、話に付き合ってきた真陽が思うに。

 旭は、話をする中で「結論」よりも「起こった出来事を順番に」のタイプだ。

 例えて言うなら。


結論派「苦労する事があって、とても困った。何に苦労したかというと……」

順番派「今日、あんな人がいて、こんな事があり、そういうふうになり、とても自分は困った」

 要は、「まず始めから終わりまでを、事細かく話したい」タイプと言える。

 ただ、旭の場合は話が飛び飛びになるため、こちらで整理する必要があることが多い。

 まあ、「タイプ」というのも、真陽の独断と偏見によるものではあるのだが。

 そして、最後には、聞いた側が。

「今日は、こんな事があって、あんな人がいて、そんなふうに、あなたは困ったんだね?」

「(コクリ)」

と、話を「ちゃんと聞いていた」ことの証明まで持っていけば、だいたいは旭は満足する。

 逆に言えば。それをしない状態では、旭としては伝わっているかが分からないので、消化不十分なのだ。

 この結論に至るにはそれほど時間はかからなかった。

 ……ちなみにこの時の、「こんな人」は、こちらの全く知らない人であることも多い。



 ──拝啓、旭へ。

 本人を前にはぜったいに言えないけど。

 なんか、どっと疲れた……。

 長い、話が長いよ……!

 特に、「おさらい」するためには、話された内容、その順番もよく覚えてないとなのは、正直疲れるかも。

 ……とはいえ。

 それが出来るのが、自惚れでなく事実として、今のところ家族で私にしかできないんだよね。

 …………。うん。頑張ろう、わたし。

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拝啓、音無家は今日も。 月凪あゆむ @tukinagi

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