5. 破壊魔の襲来

 長男、旭は。ある頃からどのくらいか、よく物を壊していた。


 一番初めは、なんだったろうか。

 そう、確かベランダからおもちゃや絵本を落とすことから始まり。

 (悠也はそれを見て、ケタケタと笑っていた)

 家の中のガラス戸のガラスを、一枚、また一枚と割っていく。

 一番困ったろうと思うのは、テレビだった。

 壊されて、新しく買って。それをまた壊されて。

 そんな事もあって。家に一台もテレビがなかったという時もあった。

 大切なものも、たくさん壊していった。

 おそらく、その最たるは。七瀬と雅司の結婚式のテープだと思う。

 ビリビリの粉々にされたらしく。それはもう、何があっても取り戻すことは出来ないであろうものたち。

 もちろん、真陽は一度も見た事も聞いた事もない。今はもう生きていない人達の肉声や、歌声は聴きたかったと思っても、それは叶わないだろう。



 そんな旭に対して、真陽は「恐怖」を感じていた。その頃はとてもじゃないが、彼を「お兄ちゃん」なんて呼ぶ勇気はなかった。

 むしろ、どう呼ぶのが正しいのかがわからなかったくらいだ。

 その頃の真陽からすれば、旭は「こわい人」というのが、一番気持ちに正直な形だった。

 

 まさか、「今」のように、ごく普通に彼を「あさ」と呼ぶ日がくるとは。

 そして話を聞いたり、時に厳しい言葉を放つような日も、その頃は想像出来なかった。


 ――拝啓、兄へ。

 どうして、そんなに物を壊して、暴れて、意地悪もして。

 あなたは、どうしたいの?

 まだ、今は怖いとしか思えないけれど。

 ――いつか。

 それが解る日がくるのかな。

 その時、私たちはどんな風に話しているんだろう。

 まだまだ、今は出来そうにはないけど。

 いつか、本当にいつか。

 「今」のことを、「そんなこともあったね」なんて、笑えるような日が、……いやいや。笑い事でもないけど。

 もうちょっとでも、打ち解けるといいかな。

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