9. 泣くのも笑うのもやめた子

 ――今思えば。

 あの頃で既に、真陽の精神状態は何らかの「ケア」があった方が良かったのかもしれない。



 小さい頃は。ごくごく当たり前に。

 楽しければ笑うし、悲しければ泣く。

 それが、いつからか。真陽は、笑うのも泣くのも、人前ではほとんどしなくなった。

 

 どうにも、真陽はいじめっ子からすれば、格好の餌食になりやすいタチだったらしい。

 元々は泣き虫だったのだが。

 泣けば泣いたで

「泣けばいいってもんじゃないんだよ!」

 ちょっと笑っただけで

「なにニヤニヤしてんだよ、気持ちわりぃ」

 と、毎回同じ男子から睨まれる日々。

 それに加え、彼女は声が通るほうでなかった。 なのでよく、何かを言っても、あまり気付かれない。声が聞こえても結局は

「なに? 聞こえなかった」

 そんな日々だった。



 そんな真陽に、ある一つの出会いがあった。

 その少女は、真陽よりも更に広い範囲の子どもたちから、遠ざけられていた。

「あいさつをしない」

「お礼も言わない」

 といったことを聞いていた。のだが。

 その時の真陽は、ただ「知りたかった」のだ。その少女が、本当にそこまで言われるほどの人間なのかを。


 ――それが、「自覚のないいじめ」に繋がる第一歩だとは、思わずに。

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