13. ご近所ワンコと旭と真陽、壱

 音無家の近所には、昔から犬を飼っている家が多い。特に大型の犬が。

 これは、とある犬と、その一家との話。



 子供のころ、とにかく旭は「音」で固まる事が多かった。

 例えば。

 ちょっとワケあり故に、人によく吠えかかり、ごく一部の人しか、頭を撫でることが出来ない犬。

 名は、コンとネネ。

 その出来事は、旭がまだ小学生だった頃のこと。



 ピンポン、ピンポン、ピンポン。

 けたたましく、音無家の玄関のチャイムが鳴る。

 はーい、と返事をしつつ、急いで扉を開けた七瀬を、その女性は睨みながら、こう言った。

「あれ、お宅の子供でしょ!? なんとかしてよ!」

 いまいち状況が掴めず、七瀬がポカンとしていると。女性はついて来いと言わんばかりに、歩きだした。

 わけが分からないまま、ついて行く。すると、数頭の犬の野太く吠える声が、どんどん近くなってくるのだ。

 その犬がいる家までくると。

 そこには、石のように固まっている旭がいた。

 なるほどと、七瀬は状況を察する。

 

 ――そう。旭は動物が大の苦手なのだ。


 大抵の人間は、苦手なものは避けたり逃げたりなどするものが多いと思うが、何故か旭は、固まって動かなくなる。微動だにしないくらいだ。

 そういう時、動かすための術は。

 ――正直、ない。

 それでも、女性がどうにかしろと、険しい顔で言うものだから。

 なんとかその場から引き離す。しかし、あと一歩で家だというところで、旭はダダダっと走り、何故か犬のいる家まで戻って行ってしまう。

 しかし、驚くべきは、それだけではなかった。


 ――まるで、地面にダイブでもするかのように、ザザザっとわざと転んだのだ。


 さすがに、犬の飼い主もこれには驚きに目を丸くしていた。

 そして、二頭の犬の吠える声が、あたりに響いていたのだった。

 

 それは、旭にとっても七瀬にとっても、到底忘れはできぬ出来事だった。


 その、数年後のこと――。

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