第12話:侵攻
三カ月ほどは、穏やかな日々がルーカスと私の間に流れました。
愚かなウィグル王家がマルティンを処分できないのは、当然かもしれません。
第二王子と王女がいるとはいっても、既に王太子に立ててしまった後です。
既に王太子を中心に派閥が形成されており、王太子が廃嫡にでもなってしまったら、彼らも権力の座から滑り落ちることになります。
「伝令でございます」
最近では諸国の使者が来る事も少なくなり、誰に仕える事もない辺境の独立大領主として、ルーカスのその存在感を示しています。
今までウィグル王国のために戦場を東奔西走していたため、辺境の開発に手を付けることができなかったルーカスが、本腰を入れて開発を始めたのです。
今まで戦場で戦っていた家臣が、材木などの資材はもちろん、森の恵みを集めて売る事で、昨年の数倍の純利益を生むと同時に、耕作地も広がっています。
ルーカスを慕って王国中から貧民が集まっていますから、直ぐに小国に匹敵する独立独歩の大領主になる事でしょう。
そんな状況で、ルーカスの元に何か重大な情報を持った伝令がやってきました。
「報告いたします、ヘリーズ王国の軍勢五万、国境を越えて侵攻してきました」
ついにこの時がやってきましたか。
ウィグル王国の西にある国がへリーズ王国です。
当代の国王はかなりの野心家で、各国のスキを見ては戦争を仕掛けています。
ですが、ウィグル王国に攻め込んではルーカスに撃退され、人質になった貴族や将兵を身代金で買い戻すことになっていました。
私の印象は、他国で手に入れたお金をルーカスに渡してきた王というかんじです。
「軍の総大将は誰だ?」
「王家王国を助けに行くことはない」と断言しているルーカスですが、今まで命懸けで守ってきた国が滅ぶかもしれないのです、どうしても気になるのでしょう。
敵の総大将が誰なのか、伝令に確認しました。
確かに敵の総大将次第では、王都の防壁に頼って撃退できるかもしれません。
こんな時のために、時間とお金と労力をかけて頑丈な城壁を築いてきたのです。
「ニルス将軍です」
伝令の答えを聞いて、ルーカスの顔が歪みました。
恐らく手強い敵なのでしょう、ルーカスの表情を見れば分かります。
放っておいたら、王都は攻め滅ぼされてしまうのでしょうね。
王家や貴族士族が戦いで死ぬのは当然ですが、巻き込まれて死傷する民が哀れですから、ここは私が何か言うべきなのでしょうか?
ですが、私の一言でルーカスが戦いを決意したら、家臣が巻き込まれて死傷することになります。
それに、遠征中にこの領地が攻め込まれでもしたら、ルーカスを信じて集まってきた貧民が殺されてしまうかもしれません。
私はどうすればいいのでしょうか?
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