第16話:参陣

 ルーカスが御二人と軍事同盟した事を国内外の王侯貴族に宣言されました。

 ウィグル王家やマルティンの事には一切触れず、ただ、不当にウィグル王国に侵攻してきたヘリーズ王国軍を殲滅すると宣言したのです。

 その宣言を聞いた国内貴族がこの城に参集しましたが、ルーカスが厳しい条件を付けたので、数はそれほど多くはありませんでした。


「グレンヴィル伯爵の軍は三之丸の東の家々に入ってもらいます」


 大量の兵糧を荷駄に乗せた軍勢が、家臣の指示に従って移動していきます。

 ルーカスが兵糧と軍資金の持参を義務付けた事と、領民への乱暴狼藉は領主の責任として死罪にすると宣言したことで、多くの貴族が参陣に二の足を踏んだのです。

 貴族達の私兵、領主軍の軍律がとても緩く、戦場での乱暴狼藉、略奪や婦女暴行は当たり前の事なのですが、ルーカスはそれを極度に忌み嫌います。

 言葉だけでなく、本気で領主を殺すだろうことは、ルーカスの過去の行動で明らかなので、ほとんどの貴族は王都近くで参陣する事を選びました。


「これはこれは御義父上様、初めて御意を得ます。

 ルーカスの正室にしていただいた、エルサと申します。

 不束者ではございますが、末永くよろしくお願いします」


 この城に集まった貴族の中には、ルーカスの実父、フォード伯爵ゼフォーラ卿がおられたので、私は殊勝な言葉で挨拶させてもらいました。

 本来なら公爵令嬢の私は、侯爵か辺境伯待遇なのですが、妹と実家のやった事を考えれば、下手に出ておいた方がいいと思ったのです。

 別に卑屈になっているわけではありませんが、こうなった以上は、腹を括ってルーカスの正室として生きる努力をしようと思ったのです。


「いや、これは丁寧なご挨拶を頂き、恐悦至極でございます、エルサ夫人。

 私はルーカス卿の父親として礼をとっていただけることが多いが、並の伯爵でしかないので、あまり期待をしてくださるな。

 私のできる事といったら、この城を預かるか、ルーカス卿の背後をついて歩くくらいしかないのだよ」


 随分と殊勝な事を口にされる御義父上ですね。

 もしかして、ルーカスの事が怖いのでしょうか?

 以前調子に乗った態度をとって、ルーカスを激怒させたのかもしれません。

 私もルーカスがウィリアム殿下とルシア殿下を脅かすのを見て、初めて本当の怖さというものを知りました。

 死神が横にいる恐怖など、普通の人間には耐えられませんよね、御義父上様。


「とんでもありませんわ、御義父上様。

 御義父上様がルーカスの城を護り背中を護るからこそ、ルーカスも安心して戦うことができるのです。

 どうか今回もルーカスを護ってやってくださいませ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る