第15話:激怒
ルーカスはとても冷静で、その判断力は的確でした。
私も将来の王妃として一生懸命勉強していましたが、至らないところがたくさんあって、思わず反省の言葉を口にしていました。
ですが、直ぐにルーカスが慰めてくれました。
ルーカスの話では、平時にはどれ程優れた人間も、命のやり取りをする戦場では愚かになってしまうものだそうです。
ここは剣を振り回してはいないけれど、もうすでに戦場なのだと。
「では、私が救国の英雄として大公を名乗り独立する。
国王となったウィリアム殿下がそれを承認して軍事同盟を締結する。
それで構わないのですね」
「「はい」」
ルーカスの出した条件を、ウィリアム殿下とルシア殿下が全て認められました。
国際交渉としてみれば、ルーカスの完全勝利です。
ここに御二人に味方する有力貴族がいれば、もっと条件は変わったかもしれませんが、今の御二人にはろくな兵力がありません。
ルーカスが残虐非道で、自分一人が利を得られればいいという性格なら、御二人を捕らえてマルティンに引き渡して地位を要求する事も、ニルス将軍に引き渡してこの国の半分を要求する事もできるのです。
「それで、ルシアの事なのだが」
「それ以上何も申されるな!
申されたら、この場で斬る!」
ルーカスが激怒して言葉を発しました。
この城の主ルーカスの正室として、一段高い位置でルーカスの横に座っている私ですら、背筋が凍るほどの殺気を感じました。
客として一段下で正対している御二人は、どれほど恐ろしかったでしょう。
先程までは気丈に交渉されていた御二人が、真っ青になられています。
抑えたくても抑えられない震えで、ここまでカチカチと歯が鳴る音が聞こえます。
「もう、もうし、もうしわけ、申し訳ありません」
恐怖と震えの中で、つっかえつっかえ、何度も言い直しながら、ルシア殿下が詫びを口にされた事で、ウィリアム殿下が何を言いかけたのか分かりました。
おそらくウィリアム殿下は、ルシア殿下をルーカスの正室として嫁がせて、両家の絆を強固にしたいと言いかけたのでしょう。
それは、愚かすぎますよ、ウィリアム殿下。
私が口にしてはいけない事だとは理解していますが、ルーカスは私の事を溺愛していて、私のためなら何をしでかすか分からないのです。
「今言いかけた事を今度口にしたら、私は御二人を八つ裂きにする。
はっきり言えば、別に貴男に承認してもらわなくても、私はいつでも大公であろうと王であろうと自称できるし、文句を言う奴を攻め滅ぼすこともできる。
貴男に承認を求めるのは、私のウィグル王家への最後の温情だと思われよ!」
ああ、御可哀想な御二人です。
普通なら、政略結婚が明らかな王家から降嫁を、断る者などいませんよね。
どうしてここまで愛されているのか、私自身が不思議です。
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