第14話:謀略

 ルーカスと私は、ウィリアム殿下とルシア殿下の御二人から信じられないような話を聞きました。

 でも驚いているのは私だけで、ルーカスは平然としています。

 ルーカスから見れば、よくある普通の事なのかもしれません。

 でも、私には、ヘリーズ王国にニルス将軍が仕掛けた謀略が、許し難い悪辣な事に思えるのです。


 ニルス将軍は、御二人に寝返りをするように誘ってきたというのです。

 御二人はマルティンと違って高潔な方ですから、国を裏切るような事は絶対になされないので無駄だと思うのですが、それでいいのだそうです。

 使者さえ送れば、愚かで身勝手で猜疑心が強いマルティンが、これを好機と御二人を殺そうとするからだそうです。

 決定的な失点、汚点のあるマルティンは、自分が王位を継ぐのに障害となる御二人さえ殺せれば、それでいいのだそうです、国の事などどうでもいいのだそうです。


「御国のためによく我慢なされましたね。

 相手がマルティンならまず勝てたでしょうに、ニルスにその混乱を利用されないように、ご自身が犠牲になって逃げてこられたのですね」


 私は思わず御二人に慰めの言葉をかけていました。

 腐れ外道のマルティンなど、御二人とは比べものにならない愚物です。

 ですが、マルティンに潰れられては困る貴族士族が結構いるのです。

 それでも、御二人が決起されればまず勝てたでしょう。

 ですが、その混乱に乗じてニルス将軍は王都の城門を突破した事でしょう。

 御二人が勝つと決まった時点で、マルティン派が国を売って自身の保身を図る、そうルーカスが教えてくれました。


「いえ、これは天罰です。

 王家の面目を優先し、マルティンを処罰せず、ルーカス様とエルサ様を王都から追いやった我々が、受けて当然の罰なのです」


 私は息を飲むほど驚いてしまいました。


「そのような、ウィリアム殿下とルシア殿下が私などに様付されてはいけません」


「いや、これでいいのだ、エルサ。

 ウィリアム殿下とルシア殿下は、以前は王子と王女だが、今では外患誘致罪で王族の資格を剥奪されているだろう。

 それにこの城は私とエルサの城だ、主客の地位ははっきりさせておかねば、御二人を慕って集まってくる者たちと争いになる」


 私はルーカスの言葉にビックリしましたが、話には続きがありました。


「恐らくだが、王都から遠い貴族士族、特にここに近い貴族士族が、ウィリアム殿下とルシア殿下を旗頭にして国を護ろうとするだろう。

 王都が落とされ、マルティンが殺されてから動くのか、それとも殺される前に動くのか、それは分からないが、戦いは必ず起こる。

 私が味方をすれば確実に勝てるだろうが、問題はその後の関係だ」


 ルーカスの話に、私は思わず息を飲んでしまいました。

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