第8話:新婚旅行2

 ルーカスとの馬車の旅は、本当に楽しくて、全く疲れを感じませんでした。

 少し激しく揺れる時もありますが、ルーカスが渡してくれたクッションのお陰で少し痛いくらいで済んでいます。

 ただ話し方に気を付けないと、激しく揺れた時に舌を噛み切ってしまう事もあるとルーカスが教えてくれましたので、話し難かったです。


「ここで休憩しましょう」


 本当は急いで領地に帰りたいでしょうに、ルーカスは度々休息をとってくれます。

 私が自分から花を詰みたいと言わないで済むように、気を使ってくれています。

 その時の警備は、ルーカス自身が少し離れた所でやってくれます。


「王家と公爵家の追手が心配だが、他の男を近づけるのは嫌だ」


 ルーカスにそう言われると、少々恥ずかしいですが、断り難いです。

 それに、ドレスはこういう時のために裾が大きく広がっています。

 しゃがむとスカートが全て隠してくれますから、恥ずかしさも限定されます。

 それに、私も追手の事は気になっていたのです。

 王家と公爵家だけでなく、国外の王侯貴族も密偵を放っているはずですから。


「ここで昼食休憩しましょう」


 少し大きな村に入った時に、ルーカスが昼食にすると言ってくれました。

 馬車に揺られて食欲はなかったのですが、少しは食べないと辺境まで持ちません。

 旅の途中で倒れてしまったら、ルーカスに迷惑をかけてしまいます。

 ルーカスが心変わりするとは思いませんが、足手纏いだと思われるのは嫌です。

 私はルーカスの負担になりたくはありません。

 私はルーカスの役に立つような妻になりたいのです。


「さあ、こちらへ」


 馬車を降りようとする私に、先にさっと下りて馬車の周りを駆け、馬車の扉を自ら開けてくれたルーカスが、私に手を差し伸べてくださいました。

 義務感が明らかだったマルティンとは違って、ルーカスは心から私を労わってくれています。

 その優しい心遣いに無意識に喜びの涙が流れてしまいました。


 食堂は本当に小さな所で、急いで掃き清めたのが明らかでした。

 多分ですが、ルーカスが先触れを出して準備させてくれたのでしょう。

 王都にあったルーカスの屋敷には、それほど多くの家臣や使用人がいたわけではないそうですが、全員がルーカスと行動を共にしました。

 そのうちの騎乗している者が、先行して宿泊場所を整えたり、待ち伏せがないか確認したりしてくれているようです。


 馬や馬車の数が足らなかったので、元気な男性使用人は徒歩で後から辺境に来るようですが、女は荷馬車に乗って行動を共にしています。

 普通なら後方に残されるのですが、私が疲れないように馬車の速度を抑えているので、荷馬車でも一緒に行動できるそうです。

 ルーカスが供頭と話しているのを聞いてしまいましたが、私は足手纏いになっているのですね……

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