第9話:初夜

 それほど豪華な部屋ではありませんが、奇麗に拭き掃除までされています。

 所々に野の花が飾られていて、とてもいい香りに満ちています。

 この時のために屋敷から持ってこられたのでしょう、赤と白の蝋燭が赤々と燃えて、ルーカスと私を照らし出しています。

 しかも蝋燭が四方にあるため、ルーカスと私の影が幻想的に四方に広がり、妖しい気分にさせてくれます。


「改めて言うよ、私はずっとエルサが好きだった。

 王太子の婚約者だったから我慢していたが、我慢しきれずに密偵を放って王太子の素行を調べさせ、婚約を解消させるだけのスキャンダルを見つけようとした。

 王太子が下種だったので色々と出てきて、あの日はそれをぶちまけて、エルサと王太子の婚約を解消させて、エルサに告白するつもりだったんだ。

 エルサ、一生幸せにする、死ぬときは一緒だ、結婚して欲しい」


 これでようやくすべてが分かりました。

 何故ルーカスが王太子、いえマルティンの醜聞を知っていたのかが不思議でした。

 忠義のルーカスが、王家の醜聞を調べる理由が分かりませんでした。

 でも、それが私を愛していたからだと分かって、心の奥底から幸福感が湧き上がってきて、恥かしくもあって、顔が赤くなってしまいます。

 いけません、自分の幸福感に浸っている場合ではありません、ルーカスが私の返事を待ってくれています。


「ありがとう、ルーカス、私は本当に幸せです。

 マルティンと妹に裏切られ、私は絶望していました。

 死んでしまいたい、消えてなくなりたいとまで思い詰めていました。

 そんな時に、ルーカスが救いの手を差し伸べてくれたのです。

 正直私は、ルーカスの事をずっといい幼馴染だと思っていました。

 同時に、私とは比べものにならない英雄だと思っていました。

 そして何より、フロリダ公爵家の令嬢として、王太子を愛し助けなければいけないと思っていました。

 そんな私がこんな事を口にする資格などありませんが、私を妻にしてください。

 末永くよろしくお願いします」


「こちらこそよろしくお願いします」


 私は、本当に幸せです。

 大陸有数の英雄に愛され求められているのです。

 それも一夜の恋の相手ではなく、妻に求められ、こうして優しく抱かれています。

 この時の事は、乳母や既婚の侍女から教わっていましたが、少し怖かったです。

 でも、ルーカスが優しくリードしてくれたので、全てを任せることができましたが、ルーカスが手馴れている事に嫉妬を感じてしまいました。

 どのような女性と経験してきたのかと、嫉妬してしまったのです。

 私はとても身勝手な女なのですね。

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