第3話:恥

「私は受け取っていないと申し上げていますが、信じていただけませんか?」


 私は真っ向から正直に反論する事にしました。

 これならば、勝つか負けるかの勝負になります。

 私の証言を信じてくださるか、父母と妹の証言を信じてくださるか。

 数では私の負けですが、私は一応婚約者です。

 はっきり言えば、婚約者を信じる気があるのかないのかです。


「誰がお前などを信じるというのだ?!

 舞踏会では、私に恥をかかすような粗末なドレスを着てきて、私に微笑む事もなく、いつも顔をしかめているお前を!」


 おや、おや、私が王太子の婚約者に相応しいドレスを着れないのは、私の責任ではなくドレスを用意しない父母の責任でしょう。

 その事には多くの貴族が以前から気が付いていましたから、周囲がざわめきだしましたね、この調子で墓穴を掘っていただきましょう。


「それが私の責任ですか?

 私は成人しておらず、独自の領地を持っておりません。

 王太子殿下に相応しいドレスを仕立てたくても、その資金がございません。

 両親に頼るしかありませんが、両親は妹のマリアを溺愛していて、使えるお金は全てマリアのドレスに使われます。

 その所為で私は古いドレスを自分で仕立て直して着るしかありません。

 殿下が叱られるべきは、王太子殿下の婚約者に相応しいドレスを仕立てなかった、フロリダ公爵アルバロ卿とダニエラ夫人でしょう!」


 王太子が私の正論に押されて思わず身体を後ろに引きました。

 国王と王妃は完全に下を向いてしまい、表情をうかがう事もできません。

 両親と妹も顔面を蒼白にしていますから、反論の余地がないのでしょう。

 それとも、今日まで全く反抗しなかった私が反論して驚いているのでしょうか?

 会場にいる貴族の方々も、興味津々で周囲の方と話を始めています。

 形勢が私に有利になり、これからの成り行きが楽しみなのでしょう。


「それは、それは、それは、そう、エルサが切り裂いたからです。

 殿下に贈っていただいたドレス同様、私達が仕立ててやったドレスが気に入らないと切り裂いてしまったので、仕方なくそうなってしまったのです」


 母が苦し紛れの言い訳をしますが、これが自分の首を絞めるかもしれない事に気がついていないのなら、本当の馬鹿ですね。

 マリアが病弱を装って倒れる機会をうかがっていますから、ここは一気に止めを刺した方がいいですね。


「そのように申されるのなら、この件は貴族院に訴えて裁判にしていただきます。

 本当に私にドレスを仕立てていたのか、仕立て屋の記録を調べ、店主や針子に証言していただきましょう。

 フロリダ公爵アルバロ卿とダニエラ夫人、それに王太子殿下が店主や針子を脅かして偽証させないように、騎士団で厳格に調べていただきたいものですね。

 もしここで庶民を脅かして真実を捻じ曲げ、王国の政治を歪曲させるようなら、王位に就く資格がないと言えるのではありませんか、国王陛下、王妃殿下!」


 国王も王妃も恥ずかしさで消えてしまいたいくらいなのでしょうね。

 高熱を発したように全身をガタガタと震えています。

 ここは止めと行きましょう。


「天におられる神々や歴代の国王陛下は、この現状をどう思われている事か!」

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