第4話:卒倒罵倒
私と王太子の婚約披露パーティーは修羅場と化しています。
私の舌鋒を受けて、妹のマリアが倒れる前に、王妃が卒倒してしまいました。
よほど恥ずかしかったのと、歴代の国王に申し訳ないと思ったからでしょう。
それは当代の国王も同じで、ガタガタと震えながら父祖に詫びています。
一国の国王と王妃なら、もっと図太くなければいけないと思うのですが。
まあ、鈍感で愚か過ぎる王太子の方が問題ですね。
「おのれ、言霊で母上に呪いをかけたな、魔女め。
近衛騎士、この魔女をこの場で斬り殺せ!」
失敗しました、まさか王妃が倒れると思いませんでしたし、王太子がこの機会を上手く利用して、私を殺そうとするとは思いませんでした。
ちょっと追い詰め過ぎてしまったようです。
調子に乗り過ぎて、復讐するどころかこんな所で殺されてしまうなんて。
私の本質は父母や妹よりも馬鹿なのかもしれませんね。
「なりませんぞ、王太子殿下!
ここでエルサ嬢を殺せば、栄えある王国の歴史に泥を塗ることになります!
動くなよ、近衛騎士、動けば俺も剣を抜かねばならん」
思わぬところから救いの手が差し伸べられましたね。
いえ、彼とは幼馴染ですから、それほど意外ではないのかもしれません。
ぶっきらぼうで、女性に対する優しさなど露ほども見せない人ですが、社交界の噂では、部下思いで将兵からは絶大な人気があるようです。
今回も、弱い者苛めが見過ごせなかったのかもしれませんね。
「おのれ、ルーカス、辺境伯の分際で王太子の私に逆らうか!」
王太子が身分を振りかざしてルーカスを脅かしていますが、みっともないですね。
結構離れた場所にいるので、ひと目で二人を視界に入れる事はできませんが、交互に見比べても、明らかに人間の格が違うのです。
ルーカスは十三歳で初陣を飾り、以来王家王国のために血で血を洗う戦場で戦い続けた歴戦の戦士で、あまりの軍功大きさに、実家のフォード伯爵家から独立を認められたほどです。
「はて、いつまで王太子の地位でいられるのでしょうかね?
今回の醜聞は、あまりに酷過ぎて、今までのように隠蔽する事はできませんよ。
なんと言ってもこの場には、他国の王侯貴族の方々もおられるのです。
侍女を妊娠させて母子ともに殺して口を封じたり、騎士の妻を襲ったのを隠すのに、盗賊に見せかけて一家皆殺しにしたようにはいきませんよ、王太子殿下!」
ルーカスが聞き捨てならない事を口にします。
本当の事とは思えない卑劣外道な悪事ですが、私にはルーカスが嘘をつくとは思えませんし、各国の王侯貴族も同じでしょう。
どの国も一度は戦場でルーカスと戦い、その高潔な騎士道精神を知っています。
彼を疑うよりも、マルティン王太子ならやりかねないと思うはずです。
さて、この後はどうなるのでしょうか?
私の事など、この大スキャンダルで忘れ去られるのでしょうか?
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