第2話:言掛り
私の前には怒りを装う王太子がいます。
事前に入念な打ち合わせをしていたようですが、愚かな王太子に役者の才能はないようで、子供のお遊びのような立ち振る舞いです。
社交に長けた貴族士族には、すでにこれが演技だとバレている事でしょう。
まあ、バレるように事前に手紙を送っていたのは私ですが。
「前回の婚約披露パーティーに病気で欠席した事はまだ許そう。
だが、再度開いてやったこの婚約披露パーティーにまで遅れて来るとは何事だ!
しかもなんだその粗末なドレスは。
それではまるで私がそなたを邪険に扱っているみたいではないか!
私が送ってやったドレスを着ないとは、いったいどういう了見だ!」
ふう、感情を込めて怒りを表そうとしていますが、旅芸人でもこれほど下手な役者は見たことがありません。
馬鹿で身勝手な両親は期待に打ち震えていますが、国王と王妃は苦い薬を飲んだ時のように顔を顰めています。
「申し訳ありませんが、そのようなドレスは私の手元に届いておりません」
嘘偽りのない本当の事です。
妹と両親が隠したのか、それとも最初から贈らなかったのか?
いえ、贈らないというのでは、そもそも作っていなかったら、調べられた時に事実が露呈してしまいますから、王太子達が困ることになります。
よほどの馬鹿でなければ、仕立させているでしょう。
「それが、とても申し訳ない話なのですが、このような事になってしまいまして。
どうかお許しください、王太子殿下。
エルサが王太子殿下が贈ってくださったドレスが気に入らないと言い出して、止める間もなく切り裂いてしまったのでございます」
まだ父の演技は王太子よりはマシですね。
長年社交界で生きていただけあって、仮面をかぶるのは上手です。
ですが、これから私が断罪されるのがうれし過ぎて、恐縮しているようにはみえませんから、そこが大きな失点ですね。
それでは私が断罪されるように仕向けてると、社交に長けた者には見抜かれてしまいますよ。
「なんと、私の贈ったドレスを切り裂くだと?
ドレスが気に入らなければ、はっきりとそう言えばよかろう。
それをドレスを切り裂くとは、私や王家に意趣遺恨でもあるのか?!」
やれ、やれ、これ以上下手な芝居に付き合うのも疲れてしまいます。
このようなモノを無理矢理見せられる貴族の方々もお疲れになるでしょう。
国王や王妃に至っては、恥ずかしくて顔を真っ赤にして下をむいています。
そろそろ終わりにして差し上げましょうか?
それとも、もう少し国王と王妃には恥をかいていただきましょうか?
そうですね、これほど愚かな子供を育て、その愚者を王太子に立て、私の婚約者に押し付けておいて、今更私を排除しようとした恥知らずですからね。
これほどの恥知らずなら、恥かしい思いをしても苦しくないでしょう。
もっともっと恥をかいてもらいましょう。
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