自称身体の弱い聖女の妹に、婚約者の王太子を奪われ、辺境に追放されてしまいました。

克全

第1話:天然悪女の妹

 多分、一番悪い組み合わせだったのだと思います。

 天然で無自覚な性悪の妹と、馬鹿で身勝手で愛情豊かな両親。

 それに真面目な努力家だけど、不器用で甘え下手な姉の私。

 一度本当に病気になって甘やかされた時から、妹は病弱を装って両親から愛情を独占して、姉妹間で有利な立場を手に入れる術を知ったのです。


 でも、私には、そのような恥ずかしい真似はできませんでした。

 病気だと嘘をつく事は、真面目な私にはできませんでした。

 甘えるよりは、努力して自分を高める事を選んでしまいました。

 それが両親の目には可愛げのない子と映ったのでしょう。

 私が努力を重ねれば重ねるほど、妹は病弱を装い、両親の愛情だけでなく、家臣達の同情も手に入れるようになったのです。


「お父様、お母様、お姉様の緑のドレスがとても素敵ですわね。

 でも病弱な私には、あのように鮮やかな緑は似合わないですわね……」


 妹が狡猾に両親にねだります。


「そうか、そうか、マリアは緑のドレスが欲しいのか。

 だったら直ぐに職人を呼び、最高の緑のドレスを仕立て上げさせよう」


 次の舞踏会に向けて、妹は鮮やかなピンクのドレスを欲しがり、両親は公爵家お抱えの職人に仕立て上げさせたばかりです。

 私は自分で職人を手配し、少ない予算で何とか間に合わせたのです。

 それも、妹とかぶらない色を選ぶように母上に厳命されて……


「……でも、それでは、次の舞踏会に間に合いませんわ。

 やっと体調が整ったのに、わたくし身体が弱いので、その次の舞踏会に出れるかどうかも分かりませんのに……」


 また始まりました、妹の何時もの手です。

 何のかんのと言いながら、だいたい舞踏会前には体調がよくなります。

 病弱を装って出席しないのは、前の舞踏会で失敗して恥をかいた時だけです。

 失敗を病弱の所為にするために、妹は自分に暗示をかけて高熱をだせるのです。


「まあ、そうね、身体の弱いマリアには次の機会なんてないかもしれないわ。

 エルサ、貴女はお姉さんなのだから、マリアにドレスを譲ってあげなさい」


 何時ものように母上が私からドレスを奪います。

 ここで抵抗しても無駄なのは、長年の経験で分かっています。

 下手に抵抗すれば、私の悪口陰口が、公爵家内に留まらず社交界にも広がります。

 妹が広めているのは分かっていますが、私にはどうしようもありません。

 両親も家臣の大半も、妹に誑かされてしまっていますから。


「分かりました、ですがそうなると、私は舞踏会に着ていくドレスが無くなってしまいますが、マリアのピンクのドレスを貸していただけるのでしょうか?」


 私のせめてもの抵抗というか、嫌がらせというか、反撃です。


「酷い、あのピンクのドレスは、父上と母上が私のために仕立ててくださったもの。

 それを着ないなんて、そんな親不孝な真似をさせようだなんて、お姉様はなんて意地悪な方なのでしょう……」


「エルサ!

 お前は何と性格が悪いのだ!

 身体の弱いマリアを思いやるのではなく、意地悪をするなど性悪にもほどがある!

 お前は舞踏会に出なくていい、出てもどうせ壁の花なんだからな」


 父上が激怒され、母上も私を口汚く罵られます。

 やれ、やれ、予想通りの展開になりましたね。

 最後の最後に父上と母上の愛情を確かめてみましたが、やはり私への愛情などひとかけらもありません。

 これで私も家族への情を断ち切る決断ができます。

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