第18話:妊娠

 ルーカスが口やかましく侍女達に指示を出しています。

 普段の家臣領民に優しいルーカスからは、とても考えられない姿です。

 今は侍女達も微笑ましく見てくれていますが、行き過ぎてしまったら、私がルーカスを誑かす悪女だと思われてしまいます。

 確かな事ではないので、それに少々恥ずかしくもありますので、なかなか言い出せなかったのですが、私から言わなければいけないようですね。


「旦那様、フォード伯爵閣下が少々気になる事があると申されておられます」


 私の寝室には女性とルーカスしか入れないので、侍女が伝言を持ってやってきましたが、御義父上様が表の従僕に伝えた事がようやくここまできたのでしょう。

 いえ、私には長い時間のように感じられましたが、私が嘔吐してからそれほど時間は経っていないのかもしれません。

 ちょっと悩んでいたのと、少々不安でもあったので、時間の経過が長く感じられただけで、御義父上様は私が嘔吐して直ぐに伝言したのかもしれません。


「今取り込み中だと父上に言ってくれ」


「それが、その、奥方様の嘔吐に関係する事でして……」


「なに、父上には嘔吐の原因に思い当たる事があると申されるのか?!

 私はこの場を離れたくないのに、いったい何事だというのだ!

 直ぐにこちらに……いや、駄目だ、いくら父上でもエルサの寝室は見せられん。

 だが、うううう、ここは控室まで来ていただくか?」


 御義父上様は、年の功で気がつかれているのかもしれませんね。

 私が自分で話すのは恥ずかしいので、御義父上様に話していただきましょう。

 それに勘違いだった時が怖いですから、できれば侍医に確認してもらいたいです。


「ルーカス、私は本当に大丈夫だから、御義父上様の話を聞いてきて。

 その方が私も安心できるから、ね、お願い」


「そうか、その方が安心できるか、だったら、話を聞きに行きたいが、わずかな時間もエルサの側を離れたくないし、少しでも近くにいたい。

 父上には控室まで来ていただいてくれ、来ていただけたら私がそちらに行く」


 まるで駄々っ子のように身勝手を言うルーカスに、侍女達が苦笑を浮かべていますが、私が侍女に眼をやると、意味深な視線を送る者もいます。

 私が妊娠している可能性に思い至った侍女もいるのですね。

 まあ、それも当然ですよね、彼女達は奥を束ねる侍女ですから。

 ガタガタと隣の控室で音がしますから、御義父上様が来られたようです。


「旦那様、フォード伯爵閣下が来られました」


 控室にいた侍女が旦那様を呼びに来てくれました。

 やれやれ、これで過剰に心配してくれるルーカスから解放してもらえます。

 親子同士とはいえ、独立した貴族が話をするのですから、最初に長ったらしい挨拶が必要です、その間に侍女達に話しておきましょう。

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