第19話:ルーカス狂気

「本当なのかエルサ、本当に妊娠しているのか?!」


 私が侍女達に話し終えた頃に、顔を真っ赤にしたルーカスが飛び込んできました。

 御義父上様から話を聞いたようですが、興奮のし過ぎです。

 普段のルーカスからは考えられない、とても歴戦の大将軍とは思えない行いです。

 その証拠に、侍女達は口を開けて唖然としています。

 私と結婚した事で、色々とイメージが崩れたと、親しくなった侍女が話してくれましたが、今回の行動は修正したイメージを更に崩してしまったようです。


「お待ちください、旦那様。

 侍医に見てもらわなければ、正確な事は申せません。

 今侍女が呼んでくれていますから、もうしばらくお待ちください」


 私の言葉を聞いたルーカスは「ウッウッウッ」と呻くような声を出したかと思うと、部屋の中をウロウロと落ち着きなく歩きだしました。

 あまりの興奮した姿に、思わず吹き出してしまいそうになり、必死で我慢しなければいけなかったです。

 でも、直ぐに大切な事を忘れている事に気がつきました。


「旦那様、御義父上様はどうされておられるのですか?

 まさかとは思いますが、控室でお待たせしたままではありませんよね?」


「う、忘れていた、だが、絶対にこの部屋からは出ないぞ。

 君、君が父上に、侍医に確認するまでははっきりといえないと伝えてくれ。

 私はこの部屋から、いや、エルサの側から離れられないと伝えてくれ」


 ルーカスに命令された侍女が、直ぐに隣の控室に向かいましたが、興奮したルーカスの声があまりに大きいので、既にすべて聞こえていると思います。

 でも、貴族の礼儀として、実の親子であろうと、正式な伝言は必要です。

 いえ、伝言で済ませてしまう事が非礼なので、ルーカスが行って直接伝えるのが常識なのですが、今のルーカスに何を言っても無駄ですから……


「あ、そうだ、侍医は男ではないか!

 いかん、いかん、いかんぞ、男に妊娠の確認などさせられん。

 女医だ、女性の医師を呼べ、侍医であろうと男は駄目だ」


 ルーカスがとんでもないことを口にしてしまいましたが、止められません。

 興奮のあまり、目が血走って顔が真っ赤になっているルーカスに逆らえば、何をしでかすか分かりません。

 恋するあまり刃傷沙汰に及ぶ貴族令嬢や令息が結構いるのです。

 ルーカスがこのような状況になるとは想定外ですが、愛されている事は確かで、嫌な気はしません。


「ねえ、妊娠の確認には、ルーカスが心配するような診察が必要なのかしら?」


 私が口に出さないと、侍女達だと興奮したルーカスが叱責するかもしれません。

 慶事で君臣の関係にヒビを入れるわけにはいきませんからね。

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