第20話:出陣拒否

 私の前には、暗澹たる表情をした貴族と家臣達がそろっています。

 私の横にいるルーカスは厳しい表情をしています。

 このままではヘリーズ王国軍撃滅作戦が破綻してしまいます。

 ただ、本気で決意したルーカスを翻意させる事は絶対にできないと、古参の家臣達が言っていますから、もう私が頼むしかないのでしょうね。

 ですがそんな事をすれば、ますます私がルーカスを狂わしたという噂が広まってしまいますが、民のためにはしかたないです。


「ルーカス、漢が一度約束した事を反故にしてはいけないわ。

 私もお腹の子も大丈夫だから、王都に向けて出陣してくれないかしら?」


 私の言葉を聞いても、ルーカスは表情を緩めないですが、内心で葛藤しているのが手に取るように分かります。

 でも、気配で分かります、駄目ですね。


「嫌だ、絶対に嫌だ、妊娠しているエルサを残して出陣などできない。

 エルサが無事に私達の子供を生んでくれるまでは、いや、私達の子供が無事に育つまでは、私は絶対にエルサの側から離れない!」


 貴族と家臣達から、絶望のうめき声が聞こえてきました。

 私もため息をつきたい気分ですが、そんな事をしては威厳が崩れてしまいます。

 ルーカスに相応しい妻にならなければいけないのです。

 それに、ウィリアム殿下とルシア殿下の事は別にして、王都の民が可哀想です。

 いえ、ヘリーズ王国軍が略奪と暴行を繰り返しているという、王都周辺の民が助けてあげたいと、心から想っているのです。


「ねえ、ルーカス、私はルーカスの名声が地に落ちるのが嫌なの。

 ルーカスにはずっと救民の英雄でいて欲しいのよ」


「そんな名声など、私には何の価値もない、塵芥も同然だよ。

 そんなモノよりも、私にはエルサと子供の方が大切なんだよ」


 やはりこの言葉では駄目でしたか、では次ですね。


「ねえ、ルーカス、私と子供のために、領地を手に入れてくれないかしら?

 私はルーカスとの間にたくさんの子供が欲しいの。

 その子供達全員に、広くて豊かな領地を分与したいの。

 だからこの戦いで領地を確保してくれないかしら?」


 私の評判は落ちてしまうのを覚悟で、強欲な願いを口にしました。

 ですが、この戦いに参陣する貴族士族は、全員同じように思っています。

 それを忠誠だと言い換えているだけで、忠誠には褒美がつきものですからね。

 問題はルーカスがこの言葉に素直に従ってくれるかです。

 元々ルーカスには名誉欲や権力欲が低い人だという噂がありました。

 でも、私のお願いなら聞いてくれると思ったのですが、どうでしょうか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る