第21話:忠誠と友情

「そんな見え透いた嘘で騙される僕ではないよ、エルサ。

 民のために、自分を貪欲に見せかけて、僕に出陣させる心算だね。

 エルサの気高い気持ちは理解するけれど、でも駄目だよ。

 僕には民よりもエルサと子供が大切なんだよ。

 それに、僕は王家王国に追放された身だからね。

 王国民には何の責任も義務もないのだよ。

 王国民に責任や義務があるのは、税をとり労役をさせてきた王家王国と貴族士族にあるんだよ。

 彼らがまず先陣を切って血と汗を流さないといけないのだよ」


 ルーカスのあまりにも常識的な言葉を聞いて、貴族達が顔を青ざめさせています。

 多少でも良心と誇りを持っている貴族は、恥ずかしくて下を向いています。

 確かにルーカスの言う通りで、まずは彼らが先陣を切るべきです。

 ですが、誰だって死にたくはないのです、負け戦に加わりたくはないのです。

 眼の前に戦勝の約束してくれる戦神がいるのなら、頼りたくなるのが人情です。

 

「ルーカス殿、貴君の言われる事はもっともだが、少し問題がある。

 我々がここに参陣したのは、貴君がウィリアム殿下とルシア殿下と同盟し、ヘリーズ王国軍を殲滅すると宣言したからだ。

 貴君はこの約束を反故にする心算かな?」


 流石です義御父上様、これではルーカスも出陣を拒否できません。

 ルーカスは高潔な騎士ですから、約束を破る事を極度に嫌います。

 横に立つルーカスの葛藤が伝わってきます。

 あれ、でもあっさりと平静に戻りましたが、どうしたのでしょうか?

 もっと私と誇りの間で苦しむと思ったのですが、まさか……


「父上、私の騎士としての誇りを刺激しようとされたのは流石です。

 ですがそのような葛藤は、とうの昔に終えています。

 いえ、そもそも葛藤するような事ではありません。

 私は騎士である前にエルサの夫であり子供の父親です。

 多くの騎士が誇りを金に換えている世の中です。

 騎士の誇りをエルサと子供のために捨てる事など、悩む必要もありません」


 ああ、私はこんなにもルーカスに愛されているのですね。

 それに比べて、私はどれだけルーカスを愛せているでしょうか?

 正直全く自信がありません!

 幼馴染としての情はありましたし、救国の英雄として尊敬もしていました。

 でも、愛して一緒になったのではなく、愛されて一緒になったのです。

 ルーカスの子を身籠った以外には、全くルーカスの役に立っていません。

 せめてこれくらいの事はしないと!


「ルーカスの家臣達に問います。

 ルーカスを翻意させる事は不可能でしょう。

 ですが私はルーカスの妻として、夫の名誉を泥に塗れさせるわけにはいきません。

 そなた達は長年ルーカスと戦場を共にした戦友でもあります。

 ルーカスに対する忠誠と友情があるでしょ?

 ルーカスの名誉を守る策はありませんか?」

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