第十七話 あざとい後輩

──私は悠木シオン。

昨日休んだら文化祭実行委員になってました。大体誰がやったかは分かるんですけどね。


 私は俗に言ういじめの対象になっています。

理由はクラスの中心人物の女の子が狙ってた

先輩がどうやら私のことが好きだったようです。


体育祭前に案の定告白をされてしまい…

それがどうやら彼女の耳に入ったようです。


「あんた如きが…!ふざけんじゃないよ」

「私…何もしてないです」

「チッ…色目使いやがってこのビッチが!」


 トイレに呼び出されて私は水をかけられた。

あはは…私何かしましたっけ…。


 その日から私に対するいじめはどんどんと

勢いが増していった。

教科書を隠されたり、上履きを捨てられたり

日常茶飯事でした。


 遂には机が無くなってて私は流石に…と

思って先生にも相談した。


「そうか…だがな?お前にも原因があったんじゃないか?」


────は?

発せられた言葉による絶望で私は気を失った。


 気がつくと見覚えの無い白い天井が見える。

消毒液の鼻を刺す匂いから保健室だと分かった。


ベッドから起き上がると保健室の先生がいた。


「気がついたのね…良かったわ」

「先生…私」

「教務室であなた倒れたのよ…?

覚えてる?」


──思い出そうとするとズキンと頭が痛む。

本能的に塞ごうとしているのかもしれない。


「いえ…あまり」

「そう…辛かったらいつでも来ていいからね」


 幸い保健室の先生はいい人で良かった。

私はその日から授業中も保健室に来て課題を解く毎日を送っていた。


そんな日々が続いていたある日のこと──


「すいません…休んでいいですか」

「来海くんまたなの?単位は大丈夫?」

「こう見えて順位は高いんですよ」

「まぁ…いいわよ。ほどほどにね」

「ありがとうございます…」


──なに?この不思議な感じの人。


「1年生…か。悪いけど隣のベッド使うから」

「あ…はい」


私と先輩の初コンタクトはこれだった。

この時はたまたま会っただけの人──

そんな印象を持っていた。


 時は流れて体育祭。

私は担任に言われて渋々クラスに向かう。


「あんた学校にいたのー!?」

「マジウケるんだけど」


 私は言い返す事なく荷物をまとめて保健室に戻る。


「先生…やっぱり無理です」

「え…?お…おい!悠木!」


先生の制止も無視して私はクラスを飛び出す。

意識しないように…そうしてたのに…。


「シオンちゃん…」


私は俯いたまま言葉が出せずにいた。

先生は何も言わずに私の言葉を待っていた。


「うふふ──一緒に体育祭見ましょ」

「はい…」


 外からは活気あふれる声と熱がここまで伝わってくる。

いいな…私もあそこにいたかったな。


「先生こんにちは…」

「来海くん?体育祭はどうしたの?」

「あそこ…暑すぎですよ…少し涼ませてください」


すると先輩は私に目をつけて──


「えっと…1年生名前は?」

「え…悠木シオンです…」

「ちょっとこいつ借ります」


先輩に連れられて保健室から出る。


「なぁ…お前いじめられてるだろ」

「…どうしてそう思うんですか」

「ここに来る途中…教室から飛び出していくのが見えたからな」


「少し話してくれないか?」


──真剣な目で私を見てる。

私は意を決してこれまでの事を口に出す。

何故されたのか…何をされたのか。


「そうか…苦しいだろ」

「でも仕方ないんですよ…」

「このままでいいのか」


「はい」とは言えなかった。できるならこんな事なりたくなかった。


「シオン…何組だ」

「え…?3組ですけど…」


先輩は「分かった」とだけ言い残してどこかへ行ってしまった。



──チッ。胸糞悪いな。

僕は人助けは好きではないけど…ほっとく程鬼畜じゃないからな。

3組だっけか?


3組に行くと葉月の思った通りグラウンドは行かず教室でたむろっている奴を見つけた。


葉月は徐に扉を開けた。


「は…!?2年生?クラス違うんですけど?」

「悪いけど間違えてない」

「お前に用があってきたんだ…」


「なんですかー?」

「単刀直入に言う。シオンに謝れ」


「笑わせないで欲しいんだけど、私の先輩取ったのはっ」

「黙れっ!」


 性根が腐ってやがる。


「その先輩が何でお前を好きにならなかったかわかるか?」

「は?そんなのあいつが色目使ったからだろ?」

「違う…お前に魅力がなかったからだ」


「こんな横暴で人を平気でいじめられる奴を好きになる物好きなんて世界中探しても

いないぞ」


「自分を磨こうと…努力はしたか。

失恋を他人に押し付けて恥ずかしくないのか」


「何なの?偉そうに説教しやがって!」


「ひとつだけ言っておく…」


──はぁはぁ。追いついた…。

シオンはそっとドアに耳を当てて話を聞く。

「ひとつだけ言っておく…」

 ドア越しだとうまく聞こえないなぁ…


僕は言い残すと教室から出る。

これであいつらが──とりあえず待ってみるか。


「うわっ…!なんだ来てたのか…」

「先輩…私…」


葉月は通りすがりに頭をポンっとすると

その場から去る。

「どこ行くんですか…!?」

「暑いから保健室」


葉月は背中越しに手を振り階段を降りていく。


 私も戻ろうかな。

その時教室の扉が再び開く。


「悠木……」

「今の話聞いてたんでしょ…どうせ」


 私は声を発することなくコクンと頷く。

今度は何されるんだろうとビクビクしていると


「…ごめん。」

「え…?」


予想外の言葉に思わず息が漏れる。


「もう…しないから。許されるなんて思ってる程バカじゃない」

「殴りたきゃ殴っていいから…」


グッと目をつぶりシオンの前に頭を差し出す。


「そ…そんなことしなくても…」

「もうしないならそれでいいですから…」


「悠木…」

「その優しさが…私になくてあんたにあったものなのかもな」


今までの彼女からは考えられない言葉に戸惑いを隠せないでいると玄関へと消えていった。


私は一度保健室へ戻ると先輩が1人で

お茶を飲んでいた。


「先輩…一体何を…」

「何もしてない…その顔を見る限りいい方向に進んだんだな」


葉月は「良かった」と言ってソファから立ち上がると保健室から出て行く。


「先輩!ありがとうございます」

「体育祭…楽しめよ」


──体育祭が終わりいつもの日常へと

戻っていく。


体育祭明けから私はピタリといじめられなくなった。先輩が何を言ったのか分からなかったけど…きっと変わってくれるはず…。



始業ギリギリに入ってきたいじめっ子は

クラスが一瞬ざわつくほどの変化だった。


ロングの金髪は黒に染められ

ギャル風のメイクもナチュラルに変わっていた。


SHRが終わると私の机に来て頭を下げる。


「悠木…実行委員押し付けたのは私だ…」

「私がやるよ…」


「ミサキさん…気にしないでください!」

「私…こう見えてもやる気だったんですから」


えっへんと胸を叩くと少し安堵の息をつく。


「これから少しずつ変わっていくから…」

「信じてますよ!仲良くしてくださいね」



──そして時は過ぎていく。


 ミサキは前の近寄りがたい雰囲気が柔らかくてなりクラスでも溶け込み始めている。


 最近では私とお弁当食べてくれるくらいにはなったんですよ!


最初はちょっぴり怖かったけど受け入れないで否定するのも…って思ってました。

けど、彼女の本気の姿を見ていていつのまにか

心が少しずつ開けてました!


「シオン、ご飯食べようぜ」

「ミサキちゃん…言葉遣いダメですよ」


 ヤンキーっぽさが完全に抜け切っておらず言葉遣いが乱暴になっちゃうのがたまに傷ですけどね。


──今の生活があるのも全部先輩のおかげです。

素敵な先輩だったな…。


「またあいつのこと考えてるのか?」

「確かに度胸のある奴だったな!」

「別にそんなことないですよ!」


「本当かよー」

「ほ…本当ですってば!」


ありがとうございます…先輩。



──実行委員顔合わせの日。

 私が扉を開けると既に仕事の割り振りが済んでいた。


「悠木さん…だね?君は会計の仕事を頼む」

「分かりました…」


選ぶ余地がなかったのは自業自得ですよね…。


渋々向かうと知ってる人が黙々とパソコンを打っていた。

一度深呼吸をしていざっ!


「先輩!私もここになったんですよ!」

「シオン…久しぶりだな。後それ痛い」

「お前…そんな性格だったか?」

「やだなぁーこれが本来の私です!」


「あざといな…全く」

「ショックですよ?泣きますよ?」

「話は仕事しながら聞くから…」

「はーい!」


 私は先輩の隣に座ってキーボードを打ち始める。


「ありがとうございます…先輩」


不意に耳元で囁いてみた。


「シオン…ドキッとしちゃうからダメ」

「もっとしてくださいね?」


「え…どう言う…」

「ほらほら!仕事の続きしましょうよ!」


その先を言うのが恥ずかしくなったなんて言えない。


──今はこれで我慢してくださいね先輩。



次回

第十八話 小悪魔とお姫様

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