第十八話 小悪魔とお姫様
清々しい秋晴れの中生徒たちは心躍らせながら最終準備に入っていた。
「かのちゃん…この衣装…」
「やっぱり!よく似合ってるね」
「衣装係ありがとう!」
かすみが不満げな顔をしているのにはれっきとした理由があった。
周りを見渡せばフリフリのメイド服のクラスメイトや執事服を纏った男子たちがいる。
──なのに私だけ違うんだけど!?
そう…かすみが着ていたのは紛れもなく
ドレスだった。
「かのちゃんどう言う事!」
「メイドや執事がいるならお嬢様は必要でしょ?」
「じゃあかのちゃんが…」
「私は料理長なの」
えっへんとコックコートを着たかのは胸を張る。相変わらずのボリュームにボタンが悲鳴を上げているのが一目でわかる。
「当日にこれはずるいよ…」
肩を落とすかすみを置いて時間は無情にも流れていく。
午前10時
ついに文化祭が幕を開ける。
その頃ステージ裏では──
「会長…マイクの音量大丈夫ですか」
「あぁ問題ない」
「シオン照明の方は」
「バッチリです」
機材の最終確認を終え会長はステージに向かう。全校生徒が集まり開会式が行われる。
「楽しむ準備はできているかぁぁ!」
突然の大声で会場はドッと盛り上がる。
おいおい…祭りかよ。
「死なない程度にはしゃぎまくれ!以上」
定型文とは違いかたやぶりな挨拶をしてステージを降りる。やりきった感満載の会長はとてもご機嫌だった。
「これがやりたくて会長になったまである」
「動機が不純…!?」
今の挨拶を聞いてオロオロと心配してる1年生もいたが毎年恒例の事だから
僕はもう慣れた。
僕達も各自インカムとカメラを持って解散する。
午前11時を回ると多くの人で学校は溢れ返る。
「うち…よって行きませんか?」
声をかけられた方向へ身体を向けると可愛らしいメイド服に身を包んだ生徒からビラを貰った。
「時間があったら寄らせてもらう」
「待ってますね」
貰ったビラに視線を落とす。
──ここって、かすのクラスだよな。
後で顔出しに行くか…。
小一時間ほど見回りを終えたタイミングで
僕のインカムに連絡が入る。
「実行委員に告ぐ。ずっと見回る必要はないからもっと遊んでいいぞ」
「了解です」
会長(神)からのお告げを聞いた僕は
その言葉に甘えさせてもらう事にした。
「四名様入ります」
「お帰りなさいませご主人様!」
「なぁ…あの銀髪の子可愛くないか」
「声かけてこいよ」
「馬鹿言うなって」
──うぅ恥ずかしいよぉ。
私なんでお姫様の格好してるの…。
転生してもお姫様にはなりたくない。
かすみは心にそう強く決めたのだった。
「おかえりなさいませ…って」
「はーくん…!?」
「時間が空いたから来たけど…メイドは?」
「私だけお姫様なの…!」
誰の策略だろうと思い辺りを見渡すと
かのちゃんが遠くから僕にグッジョブと親指を立てているのが見えた。
──絶対あの子だ…ナイスかのちゃん!
「とりあえずコーヒー…」
「トッピングに愛の言葉をお願いします」
「と…当店ではそのようなサービスは…」
「夜な夜な部屋から変な掛け声聞こえてきてたな…」
「わ…分かったから言わないで!」
葉月の注文を受け取ると渋々キッチンに渡す。
「かすかす!お兄さん来たね」
「しかも…なんの練習してたのかな?
掛け声って」
「からかわないでよぉ…」
「ごめんって」
「むぅ……」
「お待たせしました…コーヒーです」
「待てよ…かす」
「トッピングが無いんですけど?」
「チッ…」
──こいつ今絶対舌打ちしただろ。
僕には分かる絶対した。
「す…好きだよ…」
「はい!もうおしまい!」
紅くなった顔を隠すようにキッチンへと逃げていく。
──これを他の奴にも言ってると思うとモヤモヤするな…いくら仕事とは言っても…
「おにーさん」
「君は…かのちゃんだっけ?」
「そうです!」
「ここだけの話…あのメニュー私がかすかすに渡してきてって言ったやつなんです」
「つまりは…?」
「お兄さん専用メニューって事ですよ」
「可愛いかすかすの口からあんな言葉…
簡単に吐かせるわけに行きませんからね」
「これからもかすのことよろしく頼む…」
「任せてください!」
かのちゃんからの告げ口を聞き安心していると誰かに足を蹴られた。
「痛っ…!」
「って…かす…」
「ふん…楽しそうだったね!」
頬を膨らませながらゲシゲシと葉月の足を蹴り続ける。
「いや…あれは説明をだな…」
僕はなんとかかすを宥めて会話の内容を説明する。
「へ…じゃああのメニューって…」
「僕専用だって…」
「かのちゃんってば…!」
先程とは打って変わってかすみは恥ずかしそうな素振りを見せる。
「かのちゃんの所行ってくるから!」
「あ…おう」
「さっきのは…本音だからね」
去り際に吐かれたその言葉に僕はドキッとしてしまったのだった。
かすのクラスを出ると丁度良いタイミングでシオンに出会した。
「あ…!先輩じゃないですか!」
「ボッチですか?ボッチですよね!」
くそっ…!何も言い返させない。
「シオンそれくらいにしてやれ」
「ミサキちゃん!」
「お久しぶりっす先輩」
「…誰だ?」
「体育祭の日…怒られた人ですよ」
「あぁ…!あのギャル子」
──正直驚いた。更生したとは聞いたがまさかこの清楚ちゃんが…。
「あの時は申し訳なかったっす」
「シオンがいいならそれでいいだろ…僕に謝る必要はない」
「先輩申し訳ないですけど私はミサキちゃんと回るんで一緒にいけないです」
「悲しいですが?寂しいですよね!?」
「…用はそれだけか?僕はもう行くぞ」
「あ…」
「先輩さん?自分ちょっと腹の調子悪いんで
シオンの事頼むっす」
「えぇ!ちょ…ミサキちゃん!?」
「チャンス…モノにしろよ」
ミサキは去り際にシオンに言い残すとその場を離れる。
「……とりあえずブラブラするか」
「そ…そうですね」
「せ…折角ですし楽しみましょう!」
「早く行きましょう」
2人は各クラスの出店や有志のバンドなどを見ながら時間を過ごした。
──こいつといるのも悪くないな。
かすといる時と似たような感覚だな。
「2人とも至急体育館に来てくれ」
会長からインカムで連絡が入り僕たちは足早に向かう。
「2人とも楽しんでいる所申し訳ない」
「いえ…全然大丈夫ですよ。それで…どうかしたんですか?」
「ミスコン…ですか?」
「準備に人手が足りなくてな…」
「照明の指定とかもあって色々ドタバタしてるんだ」
「2人とも…お願いしていいか?」
「任せてください!」
「大丈夫です…」
「すまない…ありがとう」
僕は会長から出演者リストをもらい
体育館ギャラリーに登る。
「先輩…これ結構人いますね…」
「そりゃな…うちの目玉イベントだし」
パラパラっとリストに目を通していると──
「この名前って…!」
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