第十一話 穏やかじゃないな

体育祭が終わり僕の平穏な日常が戻ってくる…はずだった。


「葉月先輩!私とお昼食べましょ!」

「ダメだよ!私と食べるの!」


一部の女子生徒が葉月にたかり取り合っている。


「はぁ…ごめんね?

ぼくお昼は1人で食べたいんだ」

「分かりました!じゃあまた今度!」


物わかりが良くて助かったけど…

何でこんな事になったんだろ。

僕は一息つくために自販機へと向かう。


「はーくん人気者だね」

「かす…こんな結末が分かってたらリレー

なんて走らなかったよ」

「いいじゃない、モテモテで!」


僕が女子から話しかけられるようになって

からどこか…かすの言葉にトゲがある。


「僕は嬉しくなんてない」

「どうせ鼻の下伸ばしちゃってるんでしょ!」


ふんっと言ってかすみは自販機から立ち去る。


「かすかすお兄ちゃんをご飯に誘えた?」

「かのちゃんーダメだったよ」

「それにしてもお兄ちゃん凄い人気だね」

「あんな人のどこがいいんだろ…」

「えー…顔立ちも良いし私かすかすの

お兄ちゃんじゃなきゃ狙ってたかも」


かすみはかのにジト目を向ける。


「嘘だよ?そんな怖い顔しないでよ」

「むぅ…」

「かすかすはジェラシーなんでしょ?」

「わからない…はーくんにそんな事…

今までしたことなかったから…」

「お兄ちゃん大好きなんだね…」

「ふんっ…!」


顔を赤くしてかすみはそっぽを向く。


「もうっ!かすかすは可愛いんだから!」


かのは赤くなったかすみを抱きしめる。

かのの豊満な胸に窒息しそうになるのは

いつもの事になっていた。


一方葉月は、

「なんだったんだ…かすのやつ」


コーヒーを買い教室へと戻る。


「よう!人気者!大変だな」

「篠崎…からなうなよ。

僕は嬉しくないんだから」

「圧巻の走り見せられてよ!

俺が女なら惚れてるぜ?」

「葉月…抱いて!」

「黙れ…気持ち悪い」

「ドン引きしないで!?」


冗談で言った篠崎に対して

葉月はゴミを見るような目を向ける。


「流石に気持ち悪いぞ篠崎」

「委員長まで!?」

「葉月も大変だな」


委員長。

僕のクラスのクラス委員長、風紀委員長を

やっている。

凛とした顔立ちと立ち振る舞いは

大和撫子を感じさせる。


「こうして話すのは初めてだな」

「委員長…そこの人どうにかならない?」

「悪いな…あれは手遅れだ」

「そうか…分かったよ」

「ちょっ…!2人で俺をゴミ扱いしないで!」


「ところで葉月」

「体育祭では…その…かっこよかったぞ」

「委員長から褒めてもらえるなんて光栄だね」

「ありがとう」

「委員長…俺も走ったんだけど…」

「あぁ、そうだったな。ご苦労」

「待遇の差がひでぇ!」


「おっとチャイムが鳴ってしまうな」

「また今度改めて話そう」

「あぁ…分かったよ」

「葉月ぃ…俺なんかしたっけ?」

「早くフィギュア寄越せ」

「次のバイト代入るまで待てってば!」



昼休みを終えて午後の授業を受ける。

穏やかなに進む4時間目の授業中に吹き抜ける風はさわやかでうとうとしている生徒も

少なくない。


僕も眠気と闘っていたが5分で負けた。

5.6時間目も引き続き寝ていると

帰りのHR中にやっと起こされた。


「葉月、最後くらい起きろ」

「ん…あぁ…ありがと委員長」

「ふんっ…当然の事をしたまでだ」

「起立」

「よし、お前ら気をつけて帰れよ」

「解散」


担任の声でドタバタと生徒が教室から出て行く。

部活の準備をしたり、恋人を迎えに他クラスへ行ったりと目的は様々だ。


僕は最後の方まで残ってからいつも出る。

急いでも1分、2分の差だからな。

教室からも人が減った頃、

僕はスマホをしまい立ち上がる。


「じゃあな!葉月」

「部活…がんばれよ」


教室を出る篠崎とグータッチをして

続くようにして僕も教室を出る。


「は…葉月!」

「ん?委員長か」

「どうかした…?」

「ま…また明日」


教室からひょこっと顔を出して小さく手を振っている。


「うん、また明日」


いつもの様に玄関前でかすを待っていると

友達と降りてくるかすが見えた。

声をかけずに友達と別れるまで待つか。


「あ…はーくん」

「ん…もういいのか?」

「うん…!帰ろっか」


「今日はツンツンしちゃってごめんね…」

「別に気にしてないけど…

僕…なんかしちゃった?」

「ただのヤキモチだよ!」

「…え?」


予想外の言葉でもう一度聞き返す。


「や…ヤキモチだよ…」

「誰に?」

「はーくん…」

「誰が?」

「私」


「だって…人気者になっちゃったら

はーくんがモテちゃうじゃん…」

「100歩譲ってもモテはしない」

「どうせ鼻の下伸ばしてるんでしょ!」

「断じてないからな?

なんなら篠崎に聞いてもいいぞ」

「ほんと…?」

「本当だよ」


「なんかホッとしたら気抜けちゃった」

「あのさ…」


一息をついた後改まって葉月を呼ぶ。


「私…はーくんに…」

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