第二十六話 聖なる夜
寒空の中カップル達は街を彩るイルミネーションを背景に街を闊歩する。
吐く息は白く鼻に抜ける風は冬の訪れを直に
感じさせる。
──あ…見てみて!あのイルミ綺麗!
馬鹿…お前の方が綺麗だよ…。
もう…たっくんのバカ…!
聞こえてくる会話に反吐が出そうになるが
周りが見えないほどの恋は羨ましい。
かすは朝からかのちゃんと買い物に行ってしまった。
え?僕が何してるかだって…決まってるだろ…。
「サンタさん!風船ください」
スッ
「ありがとう!」
子供達に夢と希望を与える仕事だ。
…嘘である、サンタの着ぐるみを着て風船を
渡している。
ネットでは女子からの明日ひま?は信用
してはいけないと言うが…僕は
篠崎の明日ひま?の方が信用できない。
「葉月、調子はどうだ?」
「…それよりこの中暑い」
「悪いって…でも引き受けてくれてサンキュ!」
「クリスマス確定で暇なのお前くらいだからな」
「殺すぞ…」
「そんな怖い顔するなって!」
「僕は着ぐるみだから顔は変わらん」
「夢も希望もないこと言うなよ…」
「でも…絶対嫌がると思ったのにな」
「金はあって困らないし…目的もある」
「それに…今年も彼女のいない篠崎を見れて
ハッピーだ」
「……お前たまに鬼畜なこと言うよな」
時刻は12時を回ったくらいか…僕も休憩
したい所だが人の集まる時間だ。
全く…日本なのにキリストの誕生日祝うの
かよ…行事ごとだけ忠実な国だな。
「風船くださいな!」
「ダメだ…これは世のロリっ子ショタっ子の
ためにある」
「ちぇ…釣れないですね先輩」
「シオン…何しにきた」
「ミサキちゃんとお買い物です」
「はぁ…世の中は残酷だ…」
「それ…私に言いますか?」
「う…悪い」
「先輩は童貞で陰キャでへたれなので許してあげます」
「なんか凄いいじめられた気分…」
「おーいシオン!早く行くぞ」
「わわっ…!じゃあ先輩頑張ってくださいね」
「おう…ありがとう」
楽しそうだな…きっとかすも楽しんでるんだろう。
──って…あれは…。
「でさー、はーくんが!」
「お兄ちゃん好きだねーかすかす」
「嫌い…ではないかな」
絶対僕って気づかないよな…この格好だし…見なかったことにしよう。
──────
時刻は19時をすぎた頃。
街のイルミネーションは本来の輝きを放ち
幻想的な街を演出している。
僕も1日限りのバイトを終えて家路に帰る。
「慣れないことはするもんじゃないな…
身体が痛い…」
「お……」
いや…これはまだ早いな。
買いたい衝動を抑えて僕は再び足を進めるのだった。
「ただいま…」
「おかえりー」
「おかえりなさい」
「おかえり」
リビングに入るとローストチキンを始めと
したクリスマス料理が机いっぱいに広がっていた。
「ふふ…張り切っちゃった」
「これ…母さんが作ったの…?」
「そうよ?」
「す…すごい…」
テイクアウトしてきたものと思っていたら
まさかの…。
我母ながらスキルが高い…。
色鮮やかな料理を食べ終えるとデザートに
ホールケーキが出てくる。
上にはサンタとトナカイの砂糖菓子が乗っていた。
「あっ…!サンタ私が欲しい!」
「ガキだな…」
「はーくんにはあげないもん」
「見てみて…!」
かすの方へ振り向くとサンタの胴体だけを
食べ頭をケーキの上に乗せてドヤ顔をしていた。
「なにこれ…」
「生首ケーキ」
「いや…怖いんだけど…まさか…将来僕が
こうなるって提示?」
「違うから!もう…!」
狂気かな?495歳の吸血鬼もびっくりだから
ね…4人に分身したりしないでね。
甘さが控えめに作られていたケーキは
しつこくなくぺろっとたいらげることができた。
「ふぅ…そうだ…かす」
「なにー?」
「明日、遊びに行くぞ」
「珍しっ!はーくんが誘ってくれるなんて…」
「僕をなんだと思ってるんだ…」
「クソニート」
「…やっぱり行くのやめよっかな。
僕…クソニートだから」
「わぁぁ!ごめんって!行く行く、行きたい」
「ったく…素直に言えばよかったのに」
──運命の時間まで後1日──
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