第十五話 小悪魔と社畜


「では只今から実行委員による作業を始めるがその前に各部署からの報告を聞きたい」

生徒会長が各部署へと投げかける。


「はい。広報は地域へ配るチラシやポスター

の制作が終わりました」

「ホームページへの掲載は?」

「まだ時間がかかります」

「了解した」


「有志はどうなっている?」

「各クラスからのバンドの申請や演劇などの

パフォーマンスが多数寄せられていますが…」

「組を絞らないとコストも時間も足りないです」


手際良く会長が報告をまとめる。

見事な采配のおかげで例年よりもスムーズに

準備は進められているようだ。



報告が終わると各仕事に取り掛かる。


「来海くん、これも頼めるか?」

「会長…会計が僕1人ってキツくないですか?」

「うむ…私も手伝いたいのだが…」


僕は寝ている間に実行委員になっていた。

全体の雰囲気は良いし文句はない…と

言いたいところだが…ひとつだけ物申したい。


仕事量が……。


「後はどのくらい残っている?」

「各クラスの予算、有志団体の予算ですかね…」

「君1人に任せて本当にすまない…」

「会長の責任じゃないですよ…悪いのは…」


その時扉がガラリと開かれた。


「すいません!遅くなりました」


栗色の髪を揺らしながら顔の前で手を合わせている。


「先輩…会長怖いですよ」

「お前が遅れたからだろ…

しかも…この部署は僕とお前の2人しかいないんだから」


少女の名前は【悠木シオン】

かすと同じ1年生でとにかくあざとい。

事あるごとに思わせぶりな発言や行動を

するし…これに騙された男は多いだろう。


「よーし!私頑張っちゃいますよ!」

「…期待はしないでおく」

「何でですか!?

今に見ててくださいね?」


ロングの髪を一つにまとめようと口にゴムを

咥える。

手際良く結われた髪はポニーテールになった。


「先輩…うなじ見てました…?」

「僕はそんなものに興味はない」

「むっ…!心外です」

「早く手を動かしてくれ…頼む」

「しょうがないですね…私が手伝ってあげます」


「元々2人の仕事だろ」

僕はシオンの頭をチョップする。

「あうっ…すいませんってばー」


叩かれた場所をわざとらしく押さえているが

葉月は無視をしてキーボードを打ち始める。

構ってもらえなくなったシオンはしぶしぶ

書類に手を伸ばし仕事を始めた。



「かすみちゃん可愛いですよね」

「…どうした急に」

「色白の肌に透き通った眼…私羨ましいです」

「あいつのおじいちゃんは北欧の人なんだ。

たまたま色濃く受け継いだらしい」

「くおーたーってやつですか?」

「多分な」


「ちなみに私とかすみちゃんどっちが可愛い

ですか?」


葉月はキーボードを打つ手を止めて暫し考える。

かすは言わずもがなだな。


シオンも…顔立ちはとても可愛いと思う。

入学して半年だが既に多くの男子に告白されたらしいしな…。


「決められないな」

「どっちか言って、

どちらかが傷つくのが嫌だからな…」

「優しいんですね」


「これは僕の独り言だけど……

2人とも可愛いと思うぞ」

「そ…そうですか…」

「な…なに赤くなってるんだ。

気まずいだろ…」


「そんな答え…ズルイです」

ボソリと葉月の耳元で囁く。


「あのな…?その行動あざといぞ?」

「知ってますよ、可愛く見られたいんです」

「女の子は誰だって可愛いって

言って欲しいんですから!」


「難しいな…乙女心って」

「まだまだですね」


「今日はもう上がってくれ」


会長の一声でみんな作業を辞める。

時計は7時を回っているが校内は

文化祭の模擬店などの準備で残っている生徒で溢れかえっている。


「2人も上がって良いぞ」

「会長はどうするんですか」

「私はもう少し残ってから帰る」

「えぇー!私たちも帰るんですから

一緒に帰りましょうよ」

「しかしだな…」

「夜更かしは美容の天敵ですよ?」


「むむ…それは困るな」


「じゃっ…帰りましょ!」

「え?僕も?」

「女の子だけで帰らせるんですか…?」

「私…襲われたら怖いです」

「分かったから…早く行くぞ」


「えへへ…だから先輩好きです」


「軽々しく言うんじゃない」

「嘘じゃないかもしれませんよ…?」

「はいはい」

「また流された…」


3人は学校から帰ろうと正門を出ると

黒塗りの高級車が一台止まっていた。


「珍しいですね…この車」

「確かに見ないな」


「お嬢!迎えに来ましたぜ」

「別に来なくてもいいと言ったのに…」

「会長!?」


窓から顔を出したのは筋肉質のゴツゴツした

身体に黒いサングラスを掛けている男だった。


「そちらはお嬢の友達ですかい?」

「2人とも同じ実行委員だ」

「いつもお嬢が世話になってます」

「よせ…恥ずかしい」


「どうしたのだ…って葉月じゃないか」

「委員長…どうして後部座席に?」

「姉さんと帰るためだ」

「え…姉さん?」


「会長と?委員長が…?」


確かに言われてみれば顔立ちや凛々しい姿が良く重なる。


「すまない…2人ともまた後日でも

埋め合わせをする」

「あ…いいんですよ会長」

「ね?先輩」

「僕は気にしてないですから大丈夫ですよ」


車に乗り込む会長を見送った後

僕はシオンを駅まで送り届ける。


「ありがとうございます先輩!」

「疲れた…」

「むっ……今のは女の子に言っちゃダメですよ」

「ポイント低いです」

「なんのポイントだよ…」


「わっ…!電車が!」

「すいません!先輩行きますね」

「また明日!」

「あぁ…またな」


シオンはビシッと敬礼のポーズを決めて

トテトテ走って駅の中へと消えていくのだった。


「だからあざといって…」


暗闇の中葉月の呟きは人混みと共に消えていった。








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