第十三話 動き出す歯車


ドキドキしながらかすみは葉月を待つ。


言うんだよね…私…。

やっぱり辞めよっかな…。

それじゃダメ!


葉月が上ってくるまでの数分がかすみには

とても長い時間に感じた。


「お待たせ…って…かす?」

「あ…おかえり」


葉月はかすみの隣に座る。

先に口を開いたのは葉月の方だった。


「今日…事故に遭いそうになったよな」

「うん…」

「間に合って良かったけどさ…

かすはあのまま事故に遭ってたらって考えると寒気が収まらないんだ」


葉月は想像するだけで胸が苦しく張り裂けそうになる。


「だから…もっと自分を大切してくれ」

「約束だ」

「うん…分かったよ」

「はーくんを困らせるような事してごめん…」

「僕は2度と大切な人を失いたくない…」


葉月はギュッとかすみを抱きしめる。


切なさと愛情が痛い程伝わってくる…。


「はー…くん?」

「悪い…少しこのままがいい」


「分かったよ」とかすみは葉月も抱きしめる。


「かす…僕…かすと別れた時も苦しい程泣いたんだよ」

「ベッドの中で寝ようとしても、

星空を眺めても、アニメを見ていても…」

「頭の中ではかすのことを考えてた…」


「だから…こうしてまた出会えて本当に

良かったと思ってる」


「ありがとう…」


葉月は耳元で囁く。


あぁ…なんだ…私。

ずっと大事にされてたんだ…報われない運命を恨んで…手放したのは自分なのに。


それでも…私は…!


「ねぇ…はーくん」

「ん…どうした?」

「私もね伝えたい事があるの」


かすみは改まって葉月を真っ直ぐと見据える。


「私は…はーくんが好き」

「そんなのぼくだって…」


「違う…!兄弟でも人としてでもないの!

恋としての好きなの…」

「妹なんて…もう嫌だ!

優しくされるだけの私でいたくない」

「ワガママだけどはーくんを取られたくない…

手放したのは私だけど…それでも!」


1度落ち着いて深く息を吸う。

詰まっていたはずの言葉は自然と口から出た。


「来海葉月さん。

私と付き合ってください」


「僕はかすが好きだ。

それも1人の女性として…」


かすみの表情が少し明るくなる。


「なら…っ!」


「かすを好きな気持ちは誰にも負けない。

世界中の誰にもだ…!」


「けど…付き合うのは少し待って欲しいんだ…」

「あ…え…?

あはは…そ…そうだよね」

「ごめんね…?

妹が告白なんて気持ち悪いよね…ごめんね」


部屋から出て行こうとしたかすみを葉月は

引き止める。


「僕たちの終わりの場所…

あそこからもう一度始めよう…」


「ばか…私は今すぐはーくんが欲しいのに…」

「あの日からもう一度…僕達の止まっていた時間を始めたい…」

「僕のワガママ…聞いてくれるか?」


「本当に…バカだよ…

いつも私を待たせるんだから…」

「こんなお願い聞いてくれるの…私だけだよ」


「ありがとう…かす!」


「それまでは…お兄ちゃんな?」

「童貞ロリコンお兄ちゃん!」

「余計なものを付け足すな……

僕は自分を大事にしてるだけだ」


時が失われ…止まっていた歯車は

再び噛み合いはじめる。


いつ…どこで…誰と出会い

その出会いにどんな意味があるか誰にもわからない。

離れても…喧嘩しても…僕を理解してくれるのは君だけなんだから。


当たり前じゃない幸せをどうか手放さないで欲しい。



「…ん?かす」

「その胸元のネックレスって…」

「こ…これは!たまたま付けてただけ!」


「はいはい」

「本当にたまたまなんだからー!!」


「ほら…とりあえず母さんに

心配かけてごめんって言ってこい」

「元気になっただろ…?」


「もう一回ギュってしてくれたら

元気でる」

「全く…世話の焼ける妹だ」

「妹の言う事は聞くんでしょ?」


葉月は言われた通りギュッと抱きしめる。


「ほら…あまり心配かけちゃダメだぞ」


葉月が離すと少し物足りなさげな顔を浮かべ

しぶしぶ階段を降りて行く。


「お母さん…心配かけてごめん」

「いいのよ、それより元気になったかしら?」

「うん!」

「なら良かったわ」

「それと…お母さんはかすみの恋応援してるね」


「なっ…!?お母さん…知ってるの…?」

「何年お母さんやってると思ってるのよ、

ちなみに相手は…」


「わあぁぁぁ!言っちゃダメ!」

「どうしたんだ?大きな声出して」


「あなた…かすみが好きな人できたのよ」


「お父さんそんなの嫌だ!

どこの馬の骨だ!」

「ったく…父さん何騒いでるんだ?」


後から降りてきた葉月が呆れ顔で質問する。


「お兄ちゃん…お母さんが私の好きな人

言おうとするの…」

「か…母さん?」

「お兄ちゃんも寂しくなるわねー」


全てを知っている母さんは僕たちに

意味ありげな視線を送ってくる。


ちなみに父さんはまだ「誰だ…誰なんだ!」

と騒いでいる。


「かすみ…どんな人なんだ?

名前までは聞かん…だが中身はしっかりしてるんだろうな?」


「え…えっとね…」



私はお父さんの目を見つめる。

どんな人…か。


「私の人生の中で1番素敵な人だよ!」

「私の事を気にかけてくれて

優しくて…カッコよくて…」


「私は彼の事が好き!」


堂々と言い…やってやったとドヤ顔を浮かべてるけど…かす。

すっごい恥ずかしいから!


母さんは「あらあら」とか僕の顔を見るし

父さんは感激してるし…

かすに至ってはチラチラとこっちを見てくる。



僕が好きになってしまったのは

皮肉にもオタクの美少女。

そして、


後輩で元カノな妹だった。

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