第九話 先輩と後輩②
「葉月くん!過去最高点だったよ」
「そうか、よかったな」
「だからね…ご褒美欲しいなぁって…」
かすみはキラキラとした目で僕を見つめてくる。
断ったらシュンとするに決まってる。
「週末でいいか?」
「うん!」
テスト明けだった事もあり僕たちは図書室に寄らずそのまま家に帰った。
…これってデートなのかな?
意識し始めると急に恥ずかしくなってきた。
かすみはどう思ってるか分からないけど
僕は心臓の音がかすみに聞こえてそうで余計
音がうるさく聞こえる。
そんな葉月の考えを他所に時間は無情にも
過ぎ、日曜日になった。
待ち合わせは街の中央の柊の木の前。
予定よりも10分早く着いてしまった。
スマホをいじって時間を潰していると
すぐにかすみがやってきた。
「葉月くん〜」
トテトテと小走りで僕の方へ近づいてくるが
嫌な気がしたので僕も歩み寄る。
「わっ…!」
言わんこっちゃない。
「ほら…危ないだろ」
「えへへ…ありがとう」
転びそうになるかすみを受け止める。
「それで…どこに行こうか?」
「えっとね…ここ…行きたいな」
かすみはもじもじとしながら、
僕にパンフレットを渡してくる。
「遊園地…?」
「ダメ…かな?」
「遊園地、行くか」
「うんっ!」
僕らは近くの駅から電車に乗り、二駅先の
大きな遊園地へと向かった。
日曜日なこともあって家族連れやカップル
などで多く混み合っていた。
「流石に人が多いな」
「人…多いね」
「とりあえず入るか」
2人は行列に並び10分程度待つ。
「お待たせいたしました」
「中学生2枚フリーで」
「お客様がカップルならカップル割が
ございますよ」
「カ…カップル…」
「えっと…ぼ…くたちは」
「カ…カップル割お願いします」
「かすみ…」
「承知いたしました。中学生フリー
カップル割ですね」
「あ、ありがとうございます」
「では楽しんでくださいね」
2人は入場ゲートをくぐり少し歩いた所で
立ち止まる。
「かすみ?」
「ご…ごめんね?カップルなんて嘘ついて…
嫌だったよね」
「…嫌だったらハッキリと断っていたよ」
「え…?そ…それって」
「ほ…ほら!時間がなくなるから行くぞ」
「待ってよぉぉ」
まず僕たちは定番のジェットコースターに乗る。
「ここって…日本有数の絶叫だよな?」
「えへへ…楽しみだなぁ」
「しかも1番前だし…」
「ほらほら!葉月くんも楽しまなきゃ」
僕の心の準備を無視するように
発進のアラームが鳴り響く。
「ひっ…!」
「大丈夫だよ?怖かったら手握ってあげる?」
「た…頼む」
「わ…分かったよ」
かすみは恐る恐る葉月の手を握ると
葉月はその手をギュッと握り返す。
「なぁ…登ってないか?」
「ジェットコースターだもん!
登るでしょ?」
カタンという小さな音を最後に僕の意識は
置いていかれた。
「うわぁぁぁぁ!!」
「きゃぁぁ!」
横で本気の絶叫をしている葉月を他所に
かすみは全力で楽しんでいる。
一回転したりと大迫力なコースターを
かすみは堪能していると終着点へ着く。
「はぁ〜楽しかった!」
「そ…そうか……
僕の事はいいからは先に行ってくれ…」
「葉月くん…それ死亡フラグだよ…」
フラフラな葉月の手を引いてベンチに座る。
「本当に死ぬかと思った…」
「大袈裟だよ」
「ほら!さっきの写真」
そこには普段なら絶対に見せない表情をした
葉月と笑顔で楽しんでいるかすみが
写っていた。
手を挙げて楽しむかすみの手には
しっかりと葉月の手が握られていた。
「あっ!葉月くん見てみて!」
「どうした?」
「ねずみニキがいる!」
「そうだな…」
「写真撮ろうよ!」
「おーい!ねずみニキ!」
かすみが呼ぶと大袈裟な走り方をして近づいてくる。
写真?っとジェスチャーをするとスタッフの人へスマホを渡す。
「葉月くんも早く早く!」
「あぁ…今行くよ」
「では!手を頭の上にしてねずみのポーズ!」
「3.2.1ハイ!チーズ」
「綺麗に撮れましたよ」
「ねずみニキありがとう!」
かすみはハイタッチをして見送る。
かすみと葉月は今撮った写真を確認すると
「これ…ねずみじゃなくてパンダとかじゃないか?」
「ねーずーみー!!」
「そうだな、ねずみだな」
「むぅ…テキトーに流されたぁ」
ほっぺを膨らませて葉月を小突く。
僕らはその後も遊園地を楽しんだ。
コーヒーカップ、バイキングやゴーカートなど定番のアトラクションを乗り、
僕達は今…お化け屋敷の前にいる。
「なんでここなんだよ!!」
「葉月くん苦手なのぉ?」
ニヤニヤと煽ってくるかすみに対抗し、
「そんなわけないだろ?
かすみが怖がるかもって思ったんだ」
と嘘をつく。
何を隠そうこの少年…ホラー絶叫が
大の苦手なのだ。
「私は大丈夫!ほらほら行こ」
葉月の背中を押してお化け屋敷へ入る。
中はヒヤリとした空気が漂っており
周りの墓地などの装飾品も拘っている。
案の定葉月の痩せ我慢はすぐに剥がれる。
「か…かすみぃ…手」
「仕方ないな…もう!」
どこか嬉しそうにかすみは手を握る。
葉月は肩が触れ合う距離まで近づく。
驚かされるたびに葉月は叫び、
途中からかすみは葉月の反応を見て楽しんでいた。
お化け屋敷を出ると葉月はこの世の終わりの様な顔をしており、
かすみは満足げな表情を浮かべていた。
「はぁはぁ…怖すぎる」
「楽しかったね」
「かすみ…お前人か…?」
「あ…もう遅くなってきたね」
「なぁ…最後にあれ乗らないか?」
葉月の指を指す先には観覧車が立っていた。
かすみが否定することも無く2人は観覧車へと乗り込む。
観覧車から見えた景色は夕暮れに照らされた普段とは違う自分たちの街だった。
「なぁ…かすみ」
「ん?どうしたの」
葉月は小さな箱をかすみに渡す。
「なに?これ」
「開けてみて欲しい」
言われるがままに箱を開けると中には
クローバーの小さなネックレスが入っていた。
「いらなかったら捨ててくれ…」
葉月は顔を背け赤くなっているのを隠す。
「これ…!付けてみてもいい?」
「どう…かな?」
「凄い似合ってるぞ」
「えへへ…これ大事にするね!」
「あと…これ」
「家に帰ったら読んでくれ…いや…欲しいです」
葉月から手紙を渡されたかすみは言われた通り鞄に入れる。
「はーくんからもらったこの手紙ってこれだよね」
「なっ…!かす…お前いま出すの反則だろ!」
「えっと内容は…」
「ぎゃぁぁ!辞めろ!僕のライフはもう0よ!」
「もうおしまいだ!」
「えぇ…これからが良いところだったのに」
寂しそうな顔をするかすを他所に僕はそっぽを向く。
「じゃあ続きはまた明日ね」
「……考えておく」
「じゃっ…!おやすみ、はーくん」
「おやすみ」
「もう…はーくんもあの頃は可愛かったのにな…」
かすみは自室で手紙を読み返しながら
胸元に下がっていたネックレスを見つめるのだった。
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