第八話 先輩と後輩①
かすとの出会いは中学3年生の春。
毎日図書室に通うような
隠気な僕は窓側の風が吹き抜ける席に座って本を読んでいた。
ここの図書室は凄く良くて
漫画、ライトノベル、参考書、いろいろな
文芸作品が揃っていた。
放課後は図書室に入り浸って
閉館まで本を読む。
それが僕の日課だった。
そして…僕の他にもう1人…そこの愛用者がいた。
桃瀬かすみ。
かすの旧姓だ。
銀髪がとても綺麗な子でその髪に僕は最初
目を奪われた。
かすの読んでいる本が気になりバレない様に
覗き込んでみると…
ラブコメ系のラノベを読んでいた。
しかも僕が読んでいるモノの前の巻だった。
かすは僕の1つ下の学年だったため
交わる機会が無く…図書室で初めて見かけた。
「ね…ねぇ」
「ひゃ…ひゃい!」
「これ…読む?」
「あ…ありがとうございます」
僕は今読み終えた巻を手渡し目の前に座る。
「あ…あの…何か用ですか?」
「いや…えっと…君もこれ好きなのかなって」
「は…はい!」
「僕は来海葉月」
「わ…私は桃瀬かすみです…」
そこから僕たちが仲良くなるのに時間は
あまりかからなかった。
放課後は2人でラノベを読んで
今季のアニメについての感想を交換したり…
僕は時間を忘れて楽しんでいた。
「葉月くんは毎日ここに来てるの?」
「そうだな…僕は基本的に放課後はここにいるよ」
「そ…そうなんだ…」
「ボッチとか思っただろ…」
僕はかすみにジト目を向ける。
「本当に思ってないよ…?」
「かすみの方こそ…毎日いるじゃないか…」
「わ…私は文学少女なので…」
「ボッチ…か」
かすみは図星を突かれうなだれる。
「体育のペアは?」
「1人だよ…」
「理科の実験や移動教室は?」
「…1人」
「僕もだ」
「葉月くんもぼっちじゃん…!」
「最近までは学校に来る事もめんどくさかったよ」
「今は…違うの?」
「放課後のこの時間が好きなんだ」
そう言って葉月は笑顔を向ける。
「…私もこの時間好き」
「明日からテスト期間だよね?」
「ここで…勉強しないか?」
「……はい!!」
約束をすると僕たちは図書室を後にする。
十字交差点まで来ると僕たちは別れる。
「ただいま」
「おかえりー」
「父さん…今日は早いね」
「だろ?今日は定時で上がれたんだ」
「だから今日は父さんがご飯作るから座ってな」
僕は言葉に甘えて席に座ってTVを眺める。
「ほら!出来たぞ」
「いただきます」
今日のメインはビーフシチューのようだ。
ゆっくりと煮込まれた牛肉はスプーンで軽く
押すだけでほぐれていく。
濃厚なデミグラスソースと合わさり、
これが柔らかな牛肉ととても合う。
「美味しいよ!」
「そうだろ?頑張ったからな」
「葉月、最近よく笑うようになったな」
「何かあったのか?」
「え?そうかな」
「父さんは最近お前のいろんな表情が見れて
嬉しいぞ」
そう言って父さんは僕の頭をガシガシと
撫でてくる。
次の日
僕は約束通り図書室へと向かう。
「あ…葉月くん」
かすみがこっちだよと小さく手招きをしてくる。
「来てくれてありがとう」
「約束したもんな」
僕たちは心地よい風を浴びながら勉強を始める。
かすみの分からない問題を僕が教えるなんて事も良くあった。
「んっ…んー!」
「もう遅くなってきたね」
「今日はここくらいにしておくか」
椅子から立ち上がり帰る支度をする。
「行くか」
「あ…待ってよぉ」
かすみは急いで教科書を詰め立ち上がると…
「わっ…!」
「ったく…焦らなくていいから…な?」
机の足につまずき僕が受け止める形になった。
「怪我は無さそうでよかった」
「ご…ごめんね」
「気にするなよ」
僕はかすみを離そうとすると
何故か離れようとはしなかった。
「どうした…?どこか痛いのか?」
「顔…見られたくないからもう少しだけ…」
不思議に思ってかすみの方を見ると
はっきりと耳が赤くなっているのが分かった。
僕はやり場に困った手をどうしようか悩んだ末に軽くかすみを抱きしめた。
「これで少しは良くなるか…?」
「ばかぁ…悪化しちゃうよぉぉ」
ポカポカと僕の背中を叩いて抵抗してくるが
嫌がってる素振りは見せない。
そのまま数分間が経った。
「もう…大丈夫だよ」
「そ…そっか」
僕は自分のしていた行動を思い返すと
恥ずかしくなり…
「い…行くぞ!」
と、急かすように図書室を出ようとする。
チラリとかすみの方を向くと顔が赤くなっていた。
「か…顔が赤いのは夕陽のせいだよ…?」
「その言い訳は無理があるだろ…」
「うぅ…葉月くんがギュってしてくるから…」
「嫌だったよな…悪い」
「…嫌じゃないよ?何か安心した」
えへへっ…と恥ずかしそうに言うかすみを
僕は可愛いと思ってしまった。
「明日からも…やるか」
「うん!」
再び約束をすると図書室の扉を閉める。
2人だけの時間。
ずっと…この時間が続けばいいのにな
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