第七話 妹がデレた件について

今起こったことをありのままに話すぜ。

妹の頭を撫でていたら妹がデレた。

以上!


「なぁ…かす?少し離れてもいいんじゃないかな?」

「はーくん!はーくん!」


先ほどからずっと猫撫で声で腕を組み、

顔を擦り寄せてくる。

いや…可愛すぎるんだけど。


「かすみちゃーん?僕達兄弟だぞ?」

「じゃあかすは今日から兄弟辞めます!」

「それは困るから!」

「じゃあ、妹もスリスリしていい…?」

「……今日だけな」

「えへへ〜…はーくん優しいね」


拾った動物が懐いた。

僕はそんな感覚に見舞われる。

誰かに見られないように充分警戒しながら

家へ辿り着く。


「つ…つかれた…」

「神経の使う下校なんて初めてだ…」

「かす、しっかりしろ!」


かすの事を少し強めに揺さぶると

かすの意識が戻る。


「え…?なんで私はーくんの腕に捕まってるの!?」

「ぼ…僕はなにもしてない!

かすがしてきたんだろ」

「…覚えてないもん」

「嘘つけ」

「忘れてよぉぉ…」


僕に背中を向けて誤魔化しているが

耳が赤いので恥ずかしがっているのがすぐに

分かる。

ここは触れすぎないのが得策だろう…。


「ほら…母さんが夕食を作って待ってる」


僕はかすの肩をポンと叩き家の中へ入れる。


「2人ともおかえりなさい」

「母さん…ただいま」

「お母さんただいま」

「今日はカレーを作ったのよ〜」

「どうりで良い匂いがするわけだ」

「お母さん辛さは!?」

「ふふ…もちろん甘口よ」


かすみはホッとしたため息をこぼす。

察しの通りかすみは辛いものが大の苦手だ。

CoCo壱の1辛は傲慢に感じるレベルで。


僕たちは手を洗い席につく。

甘口に少し抵抗はあったが口に入れると

まろやかな舌触りにゴロゴロと大きめに切られた野菜達がなんとも言えないアクセントに

なっている。


そう言えばかすが来たばかりの時も

2人でカレー作ったっけ…。


「お母さんこれ美味しい!」

「いつもと少し違うけど何入れたの?」

「ココナッツミルクとスキムミルクよ」

「すごいまろやかだよ!」

「はーく…お兄ちゃんもそう思わない?」

「確かにな。すごく美味い」


「いっぱい食べてね〜」

母さんはニコニコしながら2人の食事を見守るのだった。


「ごちそうさまでした」


2人は食器を下げると各々の部屋へ向かう。

「はーくん?体育祭ってなに出るの?」

「体育祭…?僕寝てたからわからないな」

「友達聞いてみて」


僕は篠崎に電話をして詳細を聞く。

「え?葉月の種目?」

「借り物競走と選抜リレーだろ?」

「……分かった」

「じゃ!俺ノート写すから!」

「借り物と選抜リレーだってよ」

「私もリレー出るの!

いっしょだね」

「かすって運動できたっけ?」

「投げて飛んで、球を扱う以外なら!」

「要は走るだけなのね」

「私に惚れる男子が出てきたりして……」

「それは…なんか嫌だな」


これがかすの抱いたヤキモチなのか…?

モヤモヤするけどどうしようもない。

なんか悔しいな。


「なーに?別れたのにまだ好きだったりする?」

「はは…かもな」


「え…?ちょっ…!はーくんってば!」


僕ははぐらかす様に言い残して部屋に入る。

確かに…いや…認められない。


「まって…てば!」

かすみは強引に葉月の部屋に入る。


「今の言葉…どういうこと?」

「さぁね」

「私のこと…どう思ってるの」

「それを言ったら…」

「僕たちは戻れなくなってしまうだろ…」

「父さん達の幸せを崩すわけにもいかない」

「あはは…そ…うだよね」


「少し昔話しない?」

「そうだなあ…私たちが会った頃くらいの」

「唐突にどうした?」

「いいじゃんいいじゃん!」


かすが何を考えているのか僕には全く分からない。

そっか…僕達が出会ってから大分経つな…。


あの頃の僕らは恋を知らず…

別れが来るなんて思わず…


ただ目の前の君に夢中だったんだ。

あの時声をかけなければ僕らは今、

普通の兄弟でいられたのかな…。





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