第二十四話 君を忘れない
シアター独特のひやりとした空気と大画面のスクリーン。
それがより一層恐怖を駆り立ててくる。
「楽しみだな」
「あはは…」
私はスカートの裾をギュッと握って耐える事にした。
5分程度の予告が終わると映画が始まる。
────ぃ…おい!
「ふぇっ…?どうしました?」
「映画…終わったから出るぞ」
どうやら寝てしまったようだった。
「お前ずっと寝てただろ…」
「そ…!そんなことないですよ!」
「じゃあどこのシーンが好き?」
「…ゾンビが出るところですかね…」
「ゾンビでねぇよ…」
答えを聞くや否や葉月はシオンにチョップを
かます。
「あぅ…痛いですよ〜」
「あざとい。人はあぅ…なんて言わない」
「可愛かったですか?」
「ノーコメント」
2人は映画館を後にすると1度フードコートに
立ち寄る。
「人が多いと疲れるな…」
「先輩夢の国とか嫌いっぽいですよね」
「馬鹿…アヒルドダックは好きだ」
「ピンポイントッ!?」
「小腹空いたし何か食べるか?」
「私はいいですよ、席で待ってます」
そして10分程待つと葉月が帰ってくる。
「ほら…好みとか分からないから嫌いだったら僕が食べる」
そう言って手渡されたのはクレープだった。
「あ、ありがとうございます…」
──こういう所ですよ…全く。
「先輩のそれ何ですか…?」
「サメのフライ」
「サメって食べられるんですか?」
「食えなかったら売らないだろ…」
「どうですか…?」
「んー…時々食べたい味」
葉月が二口目を口に入れようとした瞬間
「いただきです!」
「あ…おいっ…!」
「確かに…意外に脂肪分があるって感じですけど美味しいですね」
「…ったく…」
呆れ顔を浮かべながら改めて口に運ぶ。
「間接キス…」
「なんで食べた後にいうの…?気にしないでいたのに…」
「意識しちゃいました?」
「うるさい黙れ」
「可愛いですね」
「やかましい!」
その後も服を見たり…ゲームセンターで遊んだりしている内に時間は過ぎていく。
「ゲーセンなんて久しぶりだったな…って
もうこんな時間か…」
「シオン…もうそろっと帰ろう」
「先輩…」
クイクイっと裾を引っ張られると立ち止まる。
シオンの指差す方向にはプリントシール倶楽部…いわゆるプリクラを指していた。
──僕撮るの?
流されるままに付いてきてしまったが…
こういうのは初めてだ。
機械のアナウンスに従い様々なポーズをとらされる。
〈終わりだよ、落書きブースに移動してね〉
「先輩これならイケメンに見えますよ?」
「もはや別人じゃねーか…作画崩壊もいい所だぞ…」
────────────────────
「どーぞです!」
切り取られたプリクラを受け取る。
「私…大事にしますから!」
「そうか…良かった」
「行くぞ…お母さんたちも心配するだろ」
「そうですね、行きましょう!」
モールを出て2人は駅へと足を進める。
──今…言わなきゃ。私も前に進めない。
「先輩、ちょっといいですか?」
「どうした?荷物が重いなら持つぞ」
「違いますよーお話です」
改まって葉月に向かう。
ドキドキとした心臓の音が外にも響いてる感覚に襲われた。
シオンは一度深く息を吸い呼吸を整えると
真っ直ぐと葉月を見据えて口を開く。
「来海葉月先輩、好きです
私と付き合ってください」
予想外だった告白──心の整理は追いつかず
真剣な表情で僕の返事を待っている。
はじめての出来事だったのもあって…動揺が隠せていないかもしれない。
シオンは大事な後輩だ…出会ってからの期間こそ半年くらいなものの一緒に過ごした時間は長い。
そして…何より一緒にいる時間が楽しかった。
だけど──僕の答えは決まっている。
「シオン…凄い嬉しいよ」
「でも…ごめん…付き合えない」
シオンの頬に涙が伝う。
胸が締め付けられる様な感覚と熱くなる目頭が嫌だ。
報われないのって辛い…でも言えたんだよね…私。
「そう…ですか!そんな暗い顔しないでくださいよ…」
「急にごめんなさい…今日はここでお別れ
しましょう」
そう言ってシオンはその場を離れようとする。これ以上一緒にいたら感情のコントロールが効かなくなってしまうからだ。
…がその手を誰かに引き止められる。
引き止めたのが誰かなんて分かっていた。
「優しく…しないで下さいよ…ダメですよ…
…突き放してくれないと…」
「振ったのは…僕が悪い。けど…日が落ちて来ているのに1人で返すわけにもいかない」
「先輩のバカ…」
2人は電車に乗って最寄駅まで戻ってくると
最初の待ち合わせ場所に行く。
「すいません…ありがとうございました…」
「あぁ…僕の方こそ楽しかった…ありがとう」
「先輩は…私の事どう思ってました…?」
「ほっとけなかったんだ…妹…かすと似ている所があって…」
「一緒にいて楽しかったよ」
「良かったです…じゃあ…また学校で…」
「あぁ…またな」
2人はその場を後にする。
心が膿んでいる様な感じがする。呼吸も
苦しいし笑顔を取り繕うのも辛かった…。
でも…先輩は先輩だったな〜…ほっとけない
なんて…諦められないですよ…本当は。
先輩に救われました…学校が楽しいです…
今の私は先輩のおかげです…なら…恩返しさせてください…今度は…私が先輩を応援します。
────
「ただいま…」
「はーくんお帰り…ってどうしたの!?」
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