第二十話 越えられない壁

文化祭が終わりを迎え僕たちは休日に

入る。

慣れないことをしたせいか…身体は軋み、

脳がドッと疲れていた。


「はーくん大丈夫?」

「甘いものが飲みたい…」

「コーヒー飲む?」

「かすみさん?僕いま甘いものって…」


苦痛に苦痛を重ねる妹…きっと傷口に笑顔で塩を塗りたくるぞ…僕には分かる。


「冗談だよ!」

そう言って手渡されたのはコーヒーの中でも

唯一無二の甘さを誇るマックスコーヒー…。


僕はプルタブを開けて喉に流し込む。

絡みつくような練乳の甘さがコーヒーの苦味を打ち消している…。


「うげぇ…良くそんな甘いの飲めるね…」

「かす…これはカフェインと糖分を一緒に

取れるんだ…まさに人類の英知」

「糖尿病とカフェイン中毒製造機でしょ…」


今日のかすはどうやら辛口らしい。

全く…辛いのはカレーだけにしてくれって…

某カレー店で1辛も食べれないんですけどね。


「私起きてきたらお母さん達いないけど…知ってる?」

「町内の旅行だとよ…ちなみに熱海」


今朝教えられたばかりの情報をかすにも

伝える。


「…え?私も温泉行きたい」

「無茶言うなよ…」


真顔でアピールしてきた所を即答で

断った。


シルバーウィークと重なるとはいえ…学生2人が温泉旅行なんてカップルでもしないぞ。

…分からないけど。


「はーくんは行きたくない…?」


かすみは上目遣いで葉月に訴えかける。


「どこで覚えたんだ…それ」

「シオンちゃんがとりあえず上目遣いしとけって…」

「あのっ…やろう…」


文化祭前日の馴れ合いの時にどうやら連絡先を交換していたようだ。


「はーくん…ダメかな?」

「箱根!っていうと怒られちゃうよね…」


 あからさまに悲しそうな顔をしながら肩を落とす。

流石にこれを素通りする程、僕も腐ってはいない。


「はぁ…父さんと母さんに聞いてみてな」


かすみの表情がパァっと明るくなる。

すぐさま携帯を取り出して連絡を始める。


 リビングから出ていったと思ったら

大きな旅行用のボストンバックを持ってきた。


「…これは?」

「お母さんたち良いってさ!」

「文化祭で疲れただろうから羽伸ばしてこいって!」


父さんたち…ちょっと甘すぎないか。

しかも金は全部持ってくれるなんて……

テンション上がりすぎじゃない?


「僕とでいいのか…?かのちゃんとか…

いるだろ?」


「…はーくんがいいの」

「そ…そっか」


素直な回答にはいつになっても慣れない。


ここ最近かすの僕に対してすごく素直になった気がするし…何かを意識したようにお洒落を始めた。


──好きな人…まさかな?

だってお互いの気持ちは知ってるんだし…

けど…万が一にもかすが…。


思い返してみると最近は思い出したように

表情をだらしなくさせる事が増えた気がする。


──このままじゃスッキリしない…

ハッキリさせるためにもこの旅行に行くべき

だな。


そう決断すると葉月は重い腰を上げて

準備を始めるのだった。



──そして翌日──


神奈川県の天気は晴れ予報を示していた。

2人は家を出ると電車を乗り換え…

某大きな駅へと向かう。


「リア充…死ね」

「もうはーくん…まだ言ってるの?」

「ここ多すぎるだろ…ホテル街TOKYOに

名前変えろよ」


「まぁ…でも多いよね…流石に参っちゃうよ」


辺りは一面人で溢れかえっていた。

旅行目的や学生…会社員などさまざまな人達が入り乱れている。


「はぐれちゃそうだね…」

「ん…」


葉月はかすみに手を差し伸べる。

「はぐれられたら僕も困る…手繋げば大丈夫だろ」


かすみは恥ずかしがりながらも差し出された

手を取り…繋ぐ。


2人は無事に新幹線に乗ると

雑談に花を咲かせる。


「あっちに行ってまずすることは…!」

「弱虫ペダルの聖地巡礼…箱学」

「もう…!今はアニメ禁止!」


「地元ではピークスパイダーって言われてたのに…」

「隠キャなだけだよ…はーくん」


葉月の軽いボケに辛辣なツッコミを入れる

かすみ。

走行してるうちに目的地へとたどり着いた。

新幹線を降り…現地までのシャトルバスに乗り込む。


30分ほど揺られていると箱根温泉に着いた。

ただよう湯気からは温泉独特の硫黄の匂いが

立ち込める。


温泉街には湯浴み姿で歩く人たちが大勢いた。

2人は予約していたホテルに着くと早速

受付をする。


「すいません、予約した来海ですけど」

「申し訳ございません……

お布団の方なのですが大きめのサイズ一枚

しか空きがなく…」


「…つまり…2人で寝るって事ですか…」

「はい…誠に申し訳ございません」


「かす…どうする」

「…寝るしかないでしょ…」

「私は…そっちの方が…」

「ん?なんか言ったか…」


「なんでもない!受付さん!大丈夫なので

それで!」

「ありがとうございます…では部屋の鍵で

ございます」


葉月は鍵を受け取ると荷物を置きに部屋へと

向かう。


部屋の中は大きな和室といった感じで

内風呂も付いていて温泉らしい…。


突然決まった温泉旅行…この先に待っていたのは…


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